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REPORT 2
雨の秋夜にピアノを聴きながら読書。Yuka Akatsu出演『読書と静かな即興演奏 vol.1』レポート
2024.10.08
2024年9月27日(金)の夜、東京・池袋にある重要文化財・自由学園明日館にて、Ucuuu主催の音楽イベント「Music For The Story III - 読書と静かな即興演奏 - vol.1」が開催された。
出演はピアニスト・Yuka Akatsu。秋の虫の声と時折の雨音に包まれた厳かな空間で、参加者はコーヒーや焼き菓子と共に、読書したり、演奏に身を委ねたり、それぞれ自由に時間を過ごした。
当日の様子を、写真や参加者・出演者・企画者の感想をもとにレポートしていく。
雨音と秋の虫の声が響く、趣のある会場
ようやく夏の暑さも抜けた9月末。この日は日中から小雨が降っていた。
会場は東京・池袋にある重要文化財・自由学園明日館のラウンジホール。1921年から歴史があり、普段から結婚式や音楽コンサートなど様々なイベントが行われている。
木造の趣ある建物に、雨音がしとしとと響く。外からは秋の虫たちの鳴き声も聞こえてきて、日々の喧騒から離れた夜を過ごすのにちょうどいい。
座席は窮屈過ぎないように間隔が空けられている。椅子の間にはコーヒーや本を置ける机が置かれ、また他の参加者と目を合わせなくても済むような斜めの並びになっていた。
演奏が始まる前に、喫茶と本の準備
開場後、続々と参加者が集まってきた。程よくして、喫茶チケット購入者にコーヒーと焼き菓子が配膳される。
少し冷えた体にあたたかいコーヒーが嬉しい。しっかり濃い味は、甘いクッキーにも読書にもぴったりだ。
会場の入り口近くとピアノ横には、本が飾られていた。演奏前の待ち時間にも、既に読書を始めている人が多い。持参した本を読む参加者もいれば、置いてある本を手にとって読む人もいた。
Yuka Akatsuによる、柔らかなピアノの即興演奏
時間になって、Yuka Akatsuが登場。最初のMCでは「自由に過ごしてくださいね」と語られた。
開演した19時はすっかり夜の静けさで、秋の虫の声を遠くに聞きながら、Yuka Akatsuのピアノが優しいタッチで演奏されていく。ピアノは特にマイキングのない生音だったが、ホールの高い天井に澄んだ音が柔らかく響き、穏やかに場を包んでいた。
ゆったりと流れていく時間の中で、参加者は読書をしたり、ライブを聴いたり。静かさに少し緊張感を感じる瞬間や誰かの物音に気を取られる場面もあったが、ピアノはそんな場の雰囲気と呼応するように抑揚や音の波を変化させ、何か一体となった場を調律しているようにも感じた。
それでも読書をしていると、気づかない内に本の世界に深く入っていた。「あ、いま生演奏を聴いているんだ」とときどき我に返る。本の世界に入っている時は、特に周囲の音は気にならなかった。
1時間と少しの即興演奏を終え、少しMC。ラストは「しっかり聴く曲」として、「Inori」が演奏された。拍手の中でイベントが終了した。
参加者からの感想
※SNSへの投稿やアンケートフォームで届いた感想、イベント後に直接伝えて頂いた言葉から抜粋
・素敵な建物でYukaAkatsuさんの即興ピアノ♫を聴きながら読書📖。贅沢な時間でした。
・楽しみにしていたイベント。観客として行ってきた。今こういうのを欲していたんだと思った。
・すごくよかった〜Yukaさんのピアノとってもすきです。コーヒーもお菓子もおいしかったです☕️
・開催してくださりありがとうございました!夢だったのかな、というくらいいい時間でした🥹
・心落ち着く時間をありがとうございました。閉会の挨拶の後に、曲に集中できる状態で一曲弾いてくださる構成がとてもよかったです。読書も音楽も両方楽しめました。コーヒーも美味しかったです。
・Yukaさんのピアノ演奏が心地よく、ピアノの音に加えて外から虫の音が聞こえるのもまた良かったです。来場してる方それぞれに寛いでいる空気感、自由学園の会場の雰囲気も良く、いつまでもあの場所で過ごしたい気持ちになりました。またYukaさんのピアノをあの場所で聞きたいです。素敵な企画をありがとうございました!
・普段は忙しい日々の中で、久しぶりにこのような時間の使い方ができて、大切なことを思い出せたような気がします。
・言葉で対話しなくても、音楽や場を共にすることを通して横の方の温度感を感じられるようでした。素敵なイベントでした。
・とてもとても素敵な企画、時間をありがとうございました。いまもあの時間はうまく言葉にできないのですが、ただただ豊かな時間でした。空気の振動、ゆかさんのおと、虫の音、建物の重厚感、他の人の存在、ひとつひとつ、自分の身体が、感覚がふるえて、東京にいながらすごく久しぶりに、そんな風に自分の身体が喜んでいる感覚があった。それぞれにそれぞれの時間を大切に過ごしながら、同じ場を、同じ空気を共有していることが感じられてくる、伝わってくる温度と存在がとっても豊かでした。「深く、潜る…」のことば、とっても好きです。「何も見つからなくていい」という言葉と、ゆかさんの音楽のぬくもりに包まれて、安心して、ゆっくり、大切に潜るような時間でした。「日々を少しだけ灯すための」、ゆかさんの音楽はいつも、世界が美しいということに、希望を灯してくれるような気がして。この美しかった夜も、きっとどこかで、心を温めてくれるような気がする。この夜が終わらなければいいのにと思った。本当に、でも美しくて、豊かで、あたたかい、灯の時間でした。本当に本当にありがとうございました!
出演者・Yuka Akatsuの感想
(本を読みながら演奏するというのは)
Yuka Akatsu
わたしも初めての試みで
一体どうなるか
本番になるまで予想ができなかったのですが、
明日館さんの神聖な世界観と
夜の静かな雨、鈴虫の鳴く音
秋めく気温、
読書や喫茶をゆっくりと
味わってくださるお客様の空気を感じていると
自然と音がでてきました。
弾かせていただいたピアノも
とてもやさしい音色で、
やわらかい音だったので
繊細な表現がしやすかったです。
いろんな自分がいる中で
静かな自分が
ただずっと続いてゆく感覚と、
みんなで同じ空間と時間を共有して
みんなでひとつになってゆくような
温かい時間でした😌
企画者・石松豊の感想
今回の『Music For The Story III – 読書と静かな即興演奏 -』は、数年ぶりに新しく企画したイベントでした。
石松豊
自分が今やりたいことは何か。あったら嬉しい瞬間は何か。時間をかけてじっくりと考えました。結果的に、自分の生活の中で大切にしたい時間である「読書」と、今とても興味がある「即興演奏」(楽曲ではない、より自然体な音楽の姿)が結びつく形に。すると、特設サイトのコンセプト文章がすぐに出てきました。
とはいえ「参加者はリラックスして読書できるかな?」「出演者はどんな風に演奏するんだろう」と、特に正解のような形は見えておらず、イベントとしても取り組みがいがあるテーマでした。
当日、会場で参加者の皆さんが本を読んでいて嬉しかったです。結果的に、読書という「ひとりの時間」を「(同じ音楽を好きな)誰か」と過ごすことで、読書だけ・音楽だけからは得られない安心感や温度が生まれたのかなぁ..と感じています。
美しい瞬間を一緒につくろうとしてくれた皆さん、本当にありがとうございました。
スタッフクレジット
『Music For The Story III – 読書と静かな即興演奏 – vol.1』
■出演
Yuka Akatsu
■デザイン
坂口ナオ
■受付
コイズミリナ
■主催
Ucuuu
■企画
Yutaka Ishimatsu (orange plus music)
プロフィール
Yuka akatsu
4歳からピアノをはじめる。自由に音を表現する喜びや、創作することに惹かれ、アーティスト活動を開始。自然や光の美しさ、生きることそのものから、インスピレーションを受け、作曲や即興で音を紡ぐ。やさしい情景が思い浮かぶ、繊細で叙情的な世界を表現している。現在、全国各地での演奏会をはじめ、企業の映像音楽制作、アーティストの個展空間や喫茶店等に流れるBGM制作を多数手がける。2021年 single 3作品をデジタルリリース。2024年 1st piano album「Botanic」、Hinako Uragoとmini album 「愛しき夢」をCD&デジタルリリース。FM桐生にて、自身のラジオ番組 「月のまんなか 風を編む」毎月第3月曜日に放送中。
執筆・編集:石松豊
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The Wind of Things
M. Sage
様々な楽器とフィールドレコーディングの音が、優しい音色のレイヤーによって紡がれていて、音楽とも音ともとれる曖昧さに癒されるところが好きですね。
Tomotsugu Nakamura
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Canciones de amor
Isasa
森で浴びる秋の風のように感じるだけでなく、誰かとつながり恋に落ち始めた瞬間のようにも感じます。
Patrick Shiroishi
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Polaroid Piano
小瀬村晶
音楽が持つ余白が、物語で感じた感動や驚きが響いている心の余韻を、時間をかけて静かに柔らかく受け止めてくれる。
石松豊
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Music For Large & Small Ensembles
Kenny Wheeler
すっと心のざわめきが静まっていき、自分をだんだんと取り戻していくような感覚になった。
石松豊
ABOUT
生活風景に
穏やかな音楽を
『Ucuuu』は、穏やかな音楽のある生活風景を紹介するAmbient Lifescape Magazine(アンビエント・ライフスケープ・マガジン)です。
アンビエント、エレクトロニカ、インストゥルメンタル、アコースティックギターやピアノなど、「穏やかな音楽」は日常にBGMのように存在しています。
木漏れ日のように、日常に当たり前のようにありながらも強く認識はせず、でも視線を向けると美しさに心癒されるような「穏やかな音楽」の魅力を多面的に発信しています。