Ucuuu

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REPORT 3

本の読める店 fuzkueで4時間超のBGM演奏。Tomotsugu Nakamura出演『読書と静かな即興演奏 vol.2』レポート

2024.12.02

2024年11月9日(土)、東京・初台にある本の読める店 フヅクエ初台にて、Ucuuu主催の音楽イベント「Music For The Story III - 読書と静かな即興演奏 - vol.2」が開催された。

出演はサウンドアーティスト・Tomotsugu Nakamura。ギターや鍵盤を用いた4時間超に渡るアンビエントなBGM演奏の中で、参加者はもくもくと読書の時間を過ごした。

当日の様子を、写真や参加者・出演者・企画者の感想をもとにレポートしていく。

晴れた秋の日に、フヅクエ初の音楽イベントへ

快晴の11月。休日らしくゆったりとした陽の光に、会場である本の読める店 フヅクエ初台も照らされていた。

青い階段を登った2階にある、本の読める店 フヅクエ初台。2024年10月で10周年を迎えた。本を読むことに特化した環境が整えられており、快適な読書の時間を過ごすことができる。店内は着席で10名規模の広さ。

この日も普段通り12時から営業のため、午前中から開店準備が始まった。並行して、出演者であるTomotsugu Nakamuraも機材のセッティングや音出しをおこなう。フヅクエでは初の音楽イベントということで「どんな空気になるんだろうね」と企画側も若干そわそわしていた。

出演したのは、アート&アンビエントレーベル「TEINEI」主宰のサウンドアーティスト・Tomotsugu Nakamura。。2022年にはフヅクエ西荻窪店の音楽を制作した。(参考:読書やアンビエントがもたらす、安心感のある孤独。Tomotsugu Nakamuraに聞く「読書のための音楽」制作背景)

ライブといってもステージがある訳ではなく、普段はお客さんが座る席のひとつに出演者も座り演奏する。ギターや鍵盤をPC経由で店内のスピーカーと繋いで音を出すと、空間全体がアンビエントな柔らかい音に包まれていった。

フヅクエ初台店では、普段はオリジナル音源『music for fuzkue』が流れている。(参考:読書を深める理想の音環境って? 本の読める店 fuzkue が語る「意味がない音」の価値)

BGM演奏の中で、もくもくと読書

12時になるとお客さんが続々と店内に入ってきた。開店と同時に多く席が埋まることは珍しいらしい。早速Tomotsugu Nakamuraの演奏も始まる。

演奏は何か楽曲を再現する形ではなく、公開楽曲制作のような形でBGM的に演奏された。

席に座ると、メニューと一緒に「今日のご案内」と書かれた紙が渡される。イベントの簡単な説明と、ミュージックチャージは寄付制(必須ではないが、会計時に好きな金額を支払うことで、この日の演奏を録音した音源が後日もらえる仕組み)であること、イベントの感想と「読書のためのおすすめ音楽」をQRコードから募集していること、などが書かれていた。

コーヒーや焼き菓子を自由に注文し、読書を楽しめる。

店内では「いらっしゃいませ」などの最小限の会話しかおこなわれず、聞こえるのは演奏の音と、外から小さく聞こえる街の音だけ。お客さんの席は演奏者に背を向けていたり、横だけど少し離れていたりしたので、そこまで強く演奏者を意識することもなさそうだ。あたたかいコーヒーや焼き菓子と共に、すぐに深い読書へと入り込んでいくことができた。

楽器を変えながら、その時の空気に合わせて音を作っていく。ときどき音をループさせて流しっぱなしにする時間をつくり、休み休み取り組んでいた。

12時に来たお客さんの何名かが途中で帰ると、また新しいお客さんが入ってくる。結果的に、演奏を終える16時頃までほぼ満席の状態が続いていた。

Tomotsugu Nakamuraの足元に広がる機材たち

演奏の最後は少しずつフェードアウトするような形で終了。いつもの店内BGMに戻り、そのまま営業が続いていた。

参加者からの感想

※SNSへの投稿やアンケートフォームで届いた感想、イベント後に直接伝えて頂いた言葉から抜粋

・音楽も本も好きなので最高の空間でした。

・ひとりひとり静かに別々の内容の本を読みながらも、同じ空間で共通のBGMを聴く、というのが思い返すとなんだか不思議で、でもとても心地よい素敵な体験でした。あっという間に時間が過ぎたのですが、リラックスできるお店の雰囲気と音楽のおかげで本を読むことに集中でき、とてもよい時間を過ごせました。

・非常に心地よい音楽でした。一つ一つの音が豊かで、なおかつ穏やかで空間と調和しているように感じました。おかげでリラックスして読書できました。

・とっても素敵な時間を過ごすことができました!どうもありがとうございました。

・Tomotsugu Nakamuraさんの生演奏が、すごく好みの音楽かつ空間に馴染んでいて最高でした。集中して本を読めて、充実した時間が過ごせました。

・普段はじっくり演奏を観ることがほとんどですが、今回は演者さんに背を向けて読書と音を味わうという、自分にとっては新鮮な体験。とても素敵な時間でした。

出演者・Tomotsugu Nakamuraの感想

陽のひかりがさす中、珈琲のほのかな香りや、かすかに聞こえる本のページをめくる音に囲まれて、とてもリラックスした良い時間を過ごせました。

ぼくの座っていた席は、さながら好きなものに囲まれた自分の部屋の一部のようで、、

そこからは、窓に向ったカウンター席に並ぶお客さんの背中が見えていました。

ひとりひとりと話すわけでもなく、相対しているわけでもない。

そんななかで、いまどんな本を読んでいるのかな?と想像しながら、想像上の物語と、フヅクエさんで、現実の物語が交錯するような音が自然と生まれ出てきたような気がする。

不思議な時間でした。

Tomotsugu Nakamura
撮影:Tomotsugu Nakamura

企画者・石松豊の感想

今回は前回のvol.1とは場所を変えての開催でした。フヅクエという豊かな読書体験が約束された場所で、読書のための音楽を制作されたことがあるTomotsugu Nakamuraさんの生演奏をBGMにできる、贅沢な体験になったと思います。

自分も最初の1時間だけカウンターの席で読書していましたが、窓から差し込む光の中で、音が跳ねるように輝く瞬間と読んでいる本の言葉がときどきリンクすることがあり、じわっと心が喜んでいるのと感じられる時間でした。

より多くのお客さんに体験して欲しいことから、席を空けるために13時からは外に出たのですが、もう少し中に居たかったなぁと思います。笑

アンケートでも「また開催して欲しい」という声ばかりで嬉しかったです。次回をお楽しみにお待ちください!

石松豊

スタッフクレジット

『Music For The Story III – 読書と静かな即興演奏 – vol.2』

■出演
Tomotsugu Nakamura

■会場
本の読める店 フヅクエ初台

■デザイン
坂口ナオ

■主催
Ucuuu

■企画
Yutaka Ishimatsu (orange plus music)

プロフィール

Tomotsugu Nakamura

東京都在住のサウンドアーティスト。楽器とフィールドレコーディングを同時にプロセッシングする手法で独自のサウンドを奏でる。電子音とアコースティックのバランスがとれた音像が特徴で、 これまでにLAAPS(仏)をはじめとするの国内外のレーベルから作品を多数リリース。近年は、音楽と音の境界をテーマにギャラリーや読書カフェなどの音空間演出なども手掛けている。2023年にはドイツの音楽批評家賞”German Music Critics Award” Electronic & Experimental部門を受賞した坂本龍一の追悼アルバムmicro ambient musicに参加。2024年には東京都新宿区のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]にておこなわれている坂本龍一トリビュート展にライブ出演。

執筆・編集:石松豊

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