Ucuuu

MAGAZINE

REPORT 4

記憶の風景と、秘密のさざめき。長い物語のようなMoskitoo出演『読書と静かな即興演奏 vol.3』レポート

2025.02.22

2025年2月7日(金)の夜、東京・池袋にある重要文化財・自由学園明日館にて、Ucuuu主催の音楽イベント『Music For The Story III - 読書と静かな即興演奏 - vol.3』が開催された。

出演はサウンドアーティスト、シンガーのMoskitoo。厳かで優美な建築空間の中、冬の澄んだ空気とともに、1時間半にわたるアンビエントな即興演奏が響き渡った。参加者は読書をしたり、静かに身を委ねたりと、それぞれ自由に穏やかな時間を過ごしていた。

当日の様子を、写真や参加者・出演者・企画者の感想を交えながらレポートしていく。

冬の夜、幾何学的なデザインが美しい重要文化財へ

冷え込んだ冬の日。会場の自由学園明日館へ向かうと、すでに日は落ち、幾何学的なデザインの美しい窓に幻想的な灯りがともっていた。

自由学園明日館 夜の外観。1921年にフランク・ロイド・ライトが設計し、現在もさまざまなイベントで活用されている。

澄んだ冷たい空気に呼応するように、木造の厳かな空間が静かに佇む。座席はゆったりと間隔が空けられ、参加者同士が向かい合わないように配置されていた。

自由学園明日館 ラウンジホールでのリハーサル風景

開演前には、前回の『読書と静かな即興演奏』でTomotsugu Nakamuraが演奏した音源がBGMとして流れていた。入り口付近や奥の机には、企画者がセレクトした本が並べられ、自由に手に取ることができた。

前回は主に小説が並べられていたが、今回は雑誌や単行本もセレクトされていた

参加者が席に着くと、コーヒーとパウンドケーキが配膳されていく。中にはカナダから参加したご夫婦や、当日券を購入した訪日観光客の方もいた。

Moskitooによる静かな即興演奏

時間になると、Moskitooが登場。挨拶のあと、静かに演奏が始まった。

Moskitoo

演奏は、床に並べられたさまざまな楽器を用いて行われる。数分ごとにシーンが少しずつ移り変わり、音がひとつの物語として感じられるようだった。

読書にふける参加者の姿

参加者はそれぞれ、読書の時間を過ごしている。中には、電子書籍で読んでいる人も見られた。

途中、薄く霞んでいくような灰色の音や、ざわざわとした記憶の風景にアクセスするような音に包まれていく。気づけば、深く深く水の中へ潜るように、読書の世界に入り込んでいた。

演奏は、ギターや声、フィールドレコーディングの音源も交えながら進んでいく。文字を読んでいるのにもかかわらず、不思議と声も音として感じられた。

また展開が変わり、ページをめくるように、ぱっと光が差し込んでくる。深呼吸をすると、ありのままの自分がいることに気づいた。

1時間半にわたる即興演奏は、アルバム『Unspoken Poetry』収録曲のメロディを用いて終息へと向かう。長い旅の終着点へ辿り着いたような気持ちとともに、緩やかな余韻を残して演奏が幕を閉じた。

参加者からの感想

一段と冷え込んだ夜にたどり着いた明日館は、幻想的で暖かみを感じる素敵な場所でした。moskitooさんはお部屋の一部に同化しているように自然にいらして、音楽もライブハウスなどで聴くのとは違って聴こえました。好きな音楽がかかる場所で本を読む機会はなかなかなく、思ったより集中できたりそうかと思えば音が急に聴こえてきてはっと顔をあげてみたり、静かな中での新しい体験でした。

参加者

静かな空間で久々にスマホや通知音、雑音から離れてゆったりとした読書の時間を過ごせました。途中少しうとうとしてしまったかも。歌詞のない静かな即興演奏には、詩と向き合うのにぴったりでした。今はもう久しく聞かないオルゴールの音、子供部屋から漏れ聞こえる秘密のさざめき、ポーンポーンと丸くて透明な声に癒されました。ありがとうございました!

参加者

言葉と音楽がリンクする瞬間があり、大きく心が振動しました。素晴らしいイベントを開催してくださり、ありがとうございます。重厚な建築での贅沢な時間、ぜひmoskitooさんの第二弾企画を心待ちにしています。

参加者

出演者・Moskitooさんの感想

自由学園明日館という時が重ねられてきた空間の中で、静けさと対話するような長くて短い90分。
60分を過ぎたあたりから時間の感覚が失われて、最後は5分ほどオーバーしてしまうほど。笑
私自身も時間のなかにほどけていくように、その瞬間ごとに立ち上がる音を楽しみました。
参加された方と終演後にお話をしていると、音楽の感想と共に一緒に読まれた本のご感想もいただけて、
その人の中を流れることばや物語が音と交わって、それぞれの化学反応が生まれたようで
あとから不思議な感動が押し寄せました。

その建物、その土地、その人が醸す空気があり、それぞれの本と音楽が交わるなか、
そこでしか感じられないものが確かにあると思いました。
唯一無二の素晴らしい機会に、心から感謝いたします。

Moskitoo

企画者・石松豊の感想

今回は、ラウンジホールに初めてスピーカーを持ち込んで演奏する形式でした。伸びていく余韻を感じる生ピアノとはまた違った響きがあり、重厚な空間に音が柔らかくも高い密度で存在し続けるように感じ、とてもよい時間を過ごせましたね。

1時間半の旅が進むにつれて、どんどん物語の奥深くへ潜っていくようで、夜の森でひとり深呼吸をしていたり、海の深い場所へざぶんと入って浮かんでいたりと、時空の重なりを超えてぷかぷかと漂っていたように感じました。身体が少し軽くなったようにも感じます。

「読書しながら演奏を聴ける」イベントはあまりなく、いろいろ悩みながら開催を続けている部分もあるのですが、毎回さまざまな方が参加してくださり、申し込み時や終了後にあたたかいコメントを寄せてくださったりと、そのひとつひとつから小さな光を受け取っているようで、非常に励みになっています。ありがとうございます。

次回は2/28に、同じ自由学園明日館にて開催します。よろしければお越しください。

石松豊

スタッフクレジット

『Music For The Story III – 読書と静かな即興演奏 – vol.3』

■出演
Moskitoo

■デザイン
坂口ナオ

■受付
コイズミリナ

■主催
Ucuuu

■企画/撮影
Yutaka Ishimatsu (orange plus music)

執筆・編集・撮影:石松豊

合わせて読む

MAGAZINE

音楽と生活の新しい接点に出会う

VIEW ALL →
  • ARTIST 14

    2025.07.14

    ヴァイオリン奏者・根本理恵がソロ作品で見つけた「余白を楽しむこと」。合唱部の原体験が育んだ、音を重ねる歓び

    ヴァイオリン奏者・根本理恵がソロ作品で見つけた「余白を楽しむこと」。合唱部の原体験が育んだ、音を重ねる歓び

    2枚のソロアルバム制作背景から、その音楽性に迫る

  • ARTIST 13

    2025.07.12

    Paniyoloが奏でる、日常に寄り添う音楽。『いつものひのおわりに』に込めた穏やかな余韻と、ポップス的なやさしさ

    Paniyoloが奏でる、日常に寄り添う音楽。『いつものひのおわりに』に込めた穏やかな余韻と、ポップス的なやさしさ

    優しいナイロン弦のクラシックギターが、多くの人に愛される理由

  • ARTIST 12

    #PR 2025.06.19

    自然も心も、影があるから光が美しい。碧木莉歩『想いの消息』から始まる、穏やかで熱を秘めたピアノの旅

    自然も心も、影があるから光が美しい。碧木莉歩『想いの消息』から始まる、穏やかで熱を秘めたピアノの旅

    中南米ネオ・フォルクローレ等を中心に影響を受けて完成した1stアルバムの制作背景

DISC GUIDE

気分に合わせて新しい音楽を探す

VIEW ALL →
  • Insight II

    Julien Marchal

    気持ちを落ち着かせたり、自分のソロ活動へと気持ちを切り替えたりするために、この作品をよく聴いています。

    根本理恵

  • Pianisme

    Sylvain Chauveau

    全体的に静かな雰囲気で、余白を十分に感じられる作品です。夜、寝る前に聴くことが多いのですが、そのまま寝てしまうくらい心地よいですね。

    Paniyolo

  • Dos ríos

    Andrés Beeuwsaert

    ただ暗いだけではなく、遠くに希望のような光が現れたり消えたりしていて、それを追いかけてるようなイメージも湧いてきます。

    碧木莉歩

  • Small Winters

    Taylor Deupree

    横で小川がちょろちょろ流れているような、邪魔はしないけれど、そこにあると安心する音楽ですね。

    宮内優里

SOUND DIARY

アーティストの音日記を覗く

VIEW ALL →
  • 2024.10.30

    The Forest of Amami-Oshima Island Around Sunrise

    Soundscape Diary

    斉藤尋己

    斉藤尋己

NEWS

最新の穏やかな音楽情報を知る

VIEW ALL →
  • 2025.07.17

    山中湖でWATER WATER CAMEL・齋藤キャメルが夏まつりライブ。Yamanaka Terraceにて8/10開催

  • 2025.07.03

    アンビエントトリオ・肖像、「操れない」植物をモチーフに即興演奏した新譜『Plants i』を7/2配信リリース

  • 2025.06.27

    冥丁、温泉地の環境音を用いた新作『泉涌』を8/8リリース。大分県・別府市の制100周年記念事業の一環

  • 2025.06.25

    Yoko Komatsu、自身初となる楽譜集『情景』の発売記念コンサートを8/30に東京・永福町sonoriumで開催

ABOUT

生活風景に
穏やかな音楽を

『Ucuuu』は、穏やかな音楽のある生活風景を紹介するAmbient Lifescape Magazine(アンビエント・ライフスケープ・マガジン)です。

アンビエント、エレクトロニカ、インストゥルメンタル、アコースティックギターやピアノなど、「穏やかな音楽」は日常にBGMのように存在しています。

木漏れ日のように、日常に当たり前のようにありながらも強く認識はせず、でも視線を向けると美しさに心癒されるような「穏やかな音楽」の魅力を多面的に発信しています。

VIEW MORE →