MAGAZINE
REPORT 5
春めく新月、透明なピアノの余韻に包まれて ― Yoko Komatsu出演『読書と静かな即興演奏 vol.4』レポート
2025.03.18

2025年2月28日(金)の夜、東京・池袋にある重要文化財・自由学園明日館にて、Ucuuu主催の音楽イベント『Music For The Story III - 読書と静かな即興演奏 - vol.4』が開催された。
出演はピアニスト・Yoko Komatsu。未発表曲やクラシックの名曲の断片を交えながら、1時間半にわたる即興演奏が、厳かな佇まいの建築空間に溶け込むように静かに響いた。参加者は読書をしたり、静かに身を委ねたりと、それぞれ自由に穏やかな時間を過ごしていた。
当日の様子を、写真や参加者・出演者・企画者の感想を交えながらレポートしていく。
新月の夜、暮れゆく光が差し込む重要文化財へ
春が近づきつつある2月末の新月の日。3週間前に前回の『読書と静かな即興演奏』が行われた自由学園明日館は、その時よりも日が長くなり、空は青から柔らかな白へと穏やかに移ろっていた。

暮れゆく光が差し込むラウンジホールでは、座席の準備とリハーサルが進められていく。澄んだ空気が満ちる木造の高い天井に、柔らかなピアノの音色が響いていた。

入り口付近や奥の机には、企画者が持参した本が並べられている。ピアノの傍には、出演者のYoko Komatsuが持参した詩集なども並べられた。

参加者が席に着くと、コーヒーとパウンドケーキが配膳されていく。開演前には、第二回の『読書と静かな即興演奏』でTomotsugu Nakamuraが演奏した音源がBGMとして流れ、自然と読書が始まっていた。
Yoko Komatsuによる静かな即興演奏
時間になると、Yoko Komatsuが登場。挨拶のあと、静かに演奏が始まった。

少し緊張感のあった雰囲気が、優しいピアノの音色によって和らいでいく。序盤から参加者は思い思いに読書へと没頭していた。


途中で席を立ち、床に座って本を読む人もいた
演奏は、『青く透明に香る』や『静かな春』といった既存曲に加え、『静かな泉』『祝福』と題された未発表曲、さらにクロード・ドビュッシーやモーリス・ラヴェルなどクラシックの楽曲の断片を織り交ぜながら、即興で紡がれていった。
参加者は、音に身を任せてそっと身体を揺らしたり、目を閉じて深呼吸するように心を落ち着けたり。それぞれが、心の深い部分まで満たされるような時間を過ごしていた。


Yoko Komatsuがピアノと共に演奏に用いた「涙屑の奏で」。金属創作家・篠原智之による作品で、南米で雨乞いの儀式に使われていたレインスティックから着想を得て、真鍮で作られたオリジナル楽器だ。
ピアノの音が長く伸び、余韻が空間に溶けていく。透明な音の渦に、どんどんと引き込まれていく。

晴れた川に差し込む光、風にそよぐ葉の緑。鮮やかな風景が立ち現れるようで、自分の中にある深い湖と対話しているような、深い安心感に包まれて行った。


1時間半にわたる即興演奏の最後には、新月に合わせて『neumond』(ドイツ語で新月の意)が演奏され、心地よい余韻とともに幕を閉じた。
参加者からの感想
とても良い時間を過ごせました。演奏に集中したり、本の文字を追ったりする中で、心の深い所へ入っていけたような感じがしました。新月の日にneumondを聴くことができとても良かったです。
参加者
素敵な空間で、いい時間を過ごせました。小さなアップライトピアノから柔らかい音が奏でられ、時にはさざなみのようなざらざらした音、外から聞こえる空の音、本のページをめくる音、コーヒーカップを置く磁器の音、いろいろな種類の音が心地よく流れていました。小松さんの演奏は初めて聴きましたが、自然の音のようだったり人の声のようだったり、情景が浮かんで穏やかに聴き入ることができました。読んでいた詩集と言葉のリズム感が似ていて、それも心地よかったです。素敵な演奏会をありがとうございました。
参加者
2時間たっぷりリラックス時間を持てて、身体がほぐれました。購入していったCDもとても良かったです。
参加者
出演者・Yoko Komatsuさんの感想
新月のこの日。
Yoko Komatsu
春の気配がただよう夕暮れのなか
自由学園明日館へ。
リハーサルのときはまだ明るく、
うつろう景色を見ながら弾いてみると
すっとその世界へ入っていけました。
即興演奏とのことだったので、
「涙屑の奏で」という音の装置とともに
空気を感じながら、また詩を見ながら奏でたり
自作曲の断片を紡ぐという初めての試みを。
フランク・ロイド・ライト建築の
その美しさと、佇まいの空気に寄せ、
クラシカルな要素として
ラヴェル、ドビュッシーの曲の断片も
自由に奏でてみました。
進んでゆく時のなかで、こんな表現もあるのだと
発見の連続で、なにか、新たな扉が開かれてゆくようでした。
みなさんも、それぞれの時間を楽しんでくださったようで、帰り際にお話しさせていただくひともきもご褒美のようで…。
素敵な出逢いがあったり、ぐっときてしまうやりとりがあったりと、幸せな余韻と感謝の気持があふれる夜でした。
お越しくださいましたみなさま、
心より、ありがとうございました。
そして、丁寧なインタビュー記事をはじめ、
素敵な機会をいただいた石松さんへも、たくさんの感謝を。

企画者・石松豊の感想
Yoko Komatsuさんの音は、澄んだ2月の空気の中で、春めく光や新月が持つような、ほんのり透明で明るい温もりを持っていました。じんわりと内面を灯してもらったような時間になりましたね。
石松豊
Yoko Komatsuさんを取材した際におすすめされた『センス・オブ・ワンダー』を読んでいたのですが、自分が大切にしたい日々の瞬間に感じる気持ちとリンクし、その時に煌めいている水辺の光が風景として浮かび上がるような時間になっていました。
今回も、選書(持参した本)に嬉しいコメントをいただいたり、イベント後に満足した表情で感想を伝えてくださったりと、その些細なことにとても励まされています。イベントが、ひとりひとりの深いところにある灯と少しでも共鳴するものになっていたら、とても嬉しいです。
次回は4/19に、多摩市立中央図書館で無料開催します。お近くの方はぜひお越しください。
スタッフクレジット
『Music For The Story III – 読書と静かな即興演奏 – vol.4』
■出演
Yoko Komatsu
■デザイン
坂口ナオ
■受付
コイズミリナ
■主催
Ucuuu
■企画/撮影
Yutaka Ishimatsu (orange plus music)

プロフィール
Yoko Komatsu
Yoko Komatsu ピアニスト/音楽家。福島県、いわき市出身。武蔵野音楽大学大学院修了 。音楽に導かれるように、ピアノの世界へ。 ピアノをとおして気づいていった、"生きる"ということ、そして、目には見えない世界のこと。 根底にあるそれらの感覚に重ね、自身にとって大きな存在である自然にふれたときに感じたこと、日々を生きていくなかで心が震えた瞬間、空気を、そのまま音として残している。 2024年の春にリリースした3rd album「あえか」は、8年間運営していたpiano atelier Flussの最後の音として、透明な自然の気配と心の水辺の情景を"響き"としたアルバムであり、ひとつの集大成となった作品。 また、同年にリリースしたピアニストDaigo Hanadaと創作を重ねた「Where Clouds Are Born」は、自然の揺らぎのなかにある美しさをそのまま掬いあげたような作品となっている。 他、詩人や調香師などの表現者とのコラボレーションも多く、アーティストサポートや映像作品への楽曲制作など、活動は多岐にわたる。 "ただ、ここに在ること、満ちてゆくこと"を心深くに置き、現在は長く住んだ東京を離れ、山梨という自然のなかで音楽と新たに向き合う日々を送っている。
執筆・編集・撮影:石松豊
-
ARTIST 11
2025.04.08
宮内優里が「読書のためのBGM演奏」で届けたい、穏やかな時間。子どもからお年寄りまで「ちょうどいい音」を目指して
10年近く続けている読書BGM演奏。その背景にある「ゆるやかな探求心」に触れる
-
PROJECT 10
2025.03.25
「おしゃべりOK」で広がる図書館の可能性。多摩市立中央図書館が目指す「公共の未来」
BGMに環境音が流れ、音楽イベントが開催される新発想の図書館
-
COLUMN 5
2025.03.05
「読書と静かな即興演奏 vol.4」参加者が選ぶ「読書のための音楽」阿部海太郎、haruka nakamuraなど
Yoko Komatsu出演のイベント参加者がおすすめする音楽を紹介
ABOUT
生活風景に
穏やかな音楽を
『Ucuuu』は、穏やかな音楽のある生活風景を紹介するAmbient Lifescape Magazine(アンビエント・ライフスケープ・マガジン)です。
アンビエント、エレクトロニカ、インストゥルメンタル、アコースティックギターやピアノなど、「穏やかな音楽」は日常にBGMのように存在しています。
木漏れ日のように、日常に当たり前のようにありながらも強く認識はせず、でも視線を向けると美しさに心癒されるような「穏やかな音楽」の魅力を多面的に発信しています。
