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ARTIST 20
「生活」の響きが、音楽になる。morimoto naokiのアンビエントに宿る、日々のささやかな瞬間
2026.09.15
photo by yфu camera
国内外のアンビエントシーンで存在感を示すアーティスト・morimoto naoki。アコースティック楽器や電子楽器、そして「コップを置く音」や「風に草がそよぐ音」などを取り入れながら、日常にあるささやかな瞬間を穏やかな音楽へと変えている。
現在のアンビエントにたどり着くまでには、エレクトロニカやトイトロニカとの出会い、そして「自分の音」を探した時期があった。そこから、ある日たまたま聴いたアンビエントをきっかけに、音楽との向き合い方が大きく変わっていく。
レコードで聴くアンビエントの魅力から、楽器やフィールドレコーディングの録音で大切にしていること、ライブやサウンドインスタレーションで音を「空間に置く」試みまで。morimoto naokiの音楽を形づくる、音と生活への細やかなまなざしを聞いた。
「これだったら自分でもできるかもしれない」と思った
—モリモトさんといえば「アンビエント」というイメージがありますが、プロフィール文章には「エレクトロニカ」や「トイトロニカ」という言葉も並んでいますね。
そうですね。どちらも自分の音楽的なアイデンティティのひとつとして載せています。今はアンビエントを軸にしていますが、トイ楽器(おもちゃの楽器)やシンセサイザーの音も使っていますね。

プロフィール後半の「人々の生活や何気ない日常の瞬間から着想を得た穏やかで温もりのあるサウンドを展開する」は、自分で言葉にしたものです。
よくレーベルからは、リリース実績やコラボ歴を書いて「すごい人に見せる」ようにおすすめされるのですが、なんだかしっくりこなくて。だから、この言葉には嘘偽りのない、自分が音楽を作るときの思いが込められています。
—最初にモリモトさんが「ソロで音楽を作ろう」と思ったきっかけは何だったんですか?
もともとは下北沢系のバンドマンだったんですよ。学生時代から、メロディラインの綺麗なポップスやギターロックのバンドでベースを弾いていました。
ただ就職を機にバンドが休止して。社会人になっても、「プロを目指さなくていいから音楽を続けたい」という思いから別のバンドを組んだのですが、なかなか思うように活動が進まなくて。そんなときに、i am robot and proudやSerph、宮内優里さんなどのエレクトロニカに出会って衝撃を受けたんです。
影響を受けたアルバムと語るi am robot and proudの「The Electricity in Your House Wants to Sing」。カナダトロント生まれで、在住の中国系カナダ人であるショウハン・リームによるソロプロジェクト。当時インスト音楽というとポストロック的な「テクニカルで音の隙間が埋められたイメージ」があったが、i am robot and proudの音の柔らかさや心地よさ、”なんてことないフレーズがどんどん飛び込んできて曲が形成されること”に、大きな衝撃を受けたという。
それまでは、ソロ活動といえば弾き語りのイメージが強く、作曲もしていなかったので難しいなと思っていました。でもエレクトロニカの方々は、ひとりで活動しているし、バンドが曲を作ってライブしてから音源を作ることに対して、最初から音源を作って公表している。このやり方がとても新鮮で、「これだったら自分でもできるかもしれない」と思ったのが、この活動のスタートになっています。
—そこからエレクトロニカやトイトロニカの要素が強い、1stアルバムと2ndアルバムが作られていくんですね。この頃は、どんなことを考えて楽曲を作っていたのでしょうか?
2015年にリリースされた1stアルバム『fun』。自身曰く「全開トイトロニカ」なアルバムだという。
影響を受けたエレクトロニカの方々を目指しつつも、「自分の音ってなんだろう?」と探していました。そこで出会ったのが、トイ楽器でしたね。

やっぱりi am robot and proudの”音の柔らかさ”に惹かれていたので、とにかく柔らかい音が好きで。はじめは鉄琴がいいなと思い、そこからトイピアノやアコーディオン、おもちゃの笛などを買い揃えるようになりました。
トイ楽器は他の楽器と比べると安いし、小さくて見た目もかわいいので、コレクション性みたいなものもあって。そういう音を楽曲に入れていくことで、初期の世界観が作り上げられていったと感じています。
そういう些細な瞬間が「生活」っぽい
—その後の3rdアルバムからアンビエント的な作風に変わっていくと思います。この音楽性の変化は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
はじめは目指す音楽へ向けた衝動で動いていたのですが、2ndアルバムを作りあげたときから「やりきった」という感覚に変わっていって。3rdアルバムの制作も、それまでと同じような方向性の楽曲を10曲くらい揃えていたのですが、ミックス段階で「これは自分の音楽とは違う」となってしまったんです。
そんなとき、バスに乗っていて、たまたまRyosuke Miyataさんのアンビエントな楽曲を聴いたんです。そうしたら、すごくフィットしたんですよ。よく晴れた昼に、バスが揺れていて、車や人が通り過ぎていく。そんな風景を今でも覚えています。
当時聴いていたRyosuke Miyataのアルバム「Archipelago」。
—どんなふうにフィットしたんでしょう?
すごく自分の中にすとんと入ってくるというか、肩の力が抜けて落ち着く感じで。心地よかったんですよね。
たとえばエレクトロニカは盛り上がりなど展開があるのに対して、アンビエントはゆらっと始まって、ゆらゆら漂って、静かに終わっていくんです。そうした耳の状態に加えて、そのときは目に入ってくる景色や陽の当たり方まで、すべてがマッチしているように感じて、とてもいい瞬間だなと思ったんです。

—この原体験が、今のアンビエントな音楽性につながっていくんですね。
そうですね。そこから自分なりにアンビエントを模索して作ったものが3rdアルバムで、より手応えを掴んだのが4thアルバム『hibi』です。
2020年にリリースされた4thアルバム『hibi』。ドイツ・フランクフルトのレーベルSeil Recordsからのリリース。
やっぱりはじめてアンビエントを作ったときは、すごく難しかったんです。ひとつの音を鳴らすにも、その音の質だったり、周りの響き方によって世界観が作られる。手元にあるトイ楽器を鳴らしてみては、ちょっと違うなと思い、マイクの位置を変えたり、エフェクトのかけ方を変えたりしていました。
—4thアルバムから今までの間はずっとアンビエントに向き合っていると思いますが、この6年の中での変化は何かありますか?
もちろん、ちょっとした変化はたくさんあります。使う楽器や録り方、エフェクトのかけ方などは変わってきています。でも、マインドは『hibi』の頃と一緒なんですよね。
自分の音楽のテーマとして「生活」というのがずっとあって。生活って、大きな感情がなくても、続いていくじゃないですか。ずっと怒っていたり、楽しんでいたり、悲しんでいたりするわけじゃないというか。ぼーっと、すーっと進んでいくなかで、「なんかいい時間だな」とか「夕陽が綺麗だな」とか、ふと思う。そういう些細な瞬間が「生活」っぽいと思っていて、そのイメージから作品を作ることが多いですね。
2026年にリリースされたアルバム『Still Inside』。生活の中にあるひとつのシーンとして、ぼーっと自分と静かに対話するような瞬間にフォーカスして作った作品だという。
生活にある音を録ることが好きですね
—昨年はナカムラトモツグさんが主宰するレーベル「teinei」から、レコード作品『yuragi』を出されていました。このアルバムは、どのようなテーマで制作したのでしょうか?
『yuragi』は、自分の中で特別な作品ですね。これも生活というテーマから生まれています。生活って、基本ずっと同じことの繰り返しじゃないですか。でも、機械のようにまったく同じなわけではなく、その中で微妙に揺らいでいて、そこに人間味がある。そこにフォーカスを当てて楽曲を作っていきました。
2025年にリリースされたアルバム『yuragi』。レーベル紹介文には「生活の気配が、そのまま優しい音楽に。」というキャッチコピーが書かれていた。
レコードというフォーマットで出せたことも、すごくよかったと思っています。もともとレコードの良さはなんとなく知っていたんですけど、それまでは自分で作りたいとは考えていなくて。で、最終的にできあがって聴いたとき衝撃を受けたんですね。「これはみんなが好きになるはずだ」と思いました。

—レコードで自身のアンビエント作品を聴いたときは、他の媒体で聴いたときと比べて、どのように感じましたか?
音の質感が1個上がるみたいな感触がありました。音の丸みが出てきて、生感がありつつも、輪郭を感じるというか。カセットテープもまろやかなんだけど、輪郭はちょっとぼやけるみたいな感覚があったので、それともまた違う感じでした。
あとはデジタルとの違いは、「そこで音楽が再生されている」という体験があったことですね。本当に生で再現されているような感覚になって、すごく感動しました。

—『yuragi』の楽曲には、ギターやトイピアノ、生活音のような環境音など、さまざまな音が使われていますよね。こうした音の使い方は、いつもどのように決めているんでしょうか?
おおまかには、アコースティックな音色と、シンセサイザーなどの電子的な音色と、日々のフィールドレコーディングで録り溜めた音のパーツがそれぞれあって、それらを配置していって、その響きで楽曲を作っていくことが多いですね。好きな響きを探しているような感覚かもしれません。
あと、こだわりとしては、リバーブやディレイなどのエフェクトはほとんどかけていません。もちろん余分な高音や低音はカットするんですけど、録った音はわりとそのままの状態で配置していって、響きを決めていくイメージですね。
—「響きを作り出す」というよりも、「そのままの響きを使いたい」という感覚なんでしょうか。
そうですね。マイクを立てて録音するときも、楽器の響きだけでなく、その場の空気感を含めて録りたいと思っています。敢えてギターから離れて録音することもありますね。その音をエフェクトかけずに使うので、実は楽曲にはホワイトノイズが多く含まれていたりします。


海辺の音を録音する様子と、カップに注いだお湯の「湯気の立つ音」を録音している様子
フィールドレコーディングでも空気感を録りたいという意識は同じで、だから生活にある音を録ることが好きですね。コップを置いた音や飲み物を注ぐ音、パンが焼けた音。そういう身の回りにある音を集めたいですね。
あとは外を歩いていても、ふと録りたくなる瞬間がよくあります。たとえば電車で駅へ降りたときに雨が降ってきて、風も吹いていて、アナウンスや人のがやがやしている感じもあって・・というときに、目立たないようにささっとスマホで録音したりしていますね。笑
「なんとなくいいかも」と思ってもらいたい
—モリモトさんはカフェやお寺、屋上など、生活に近い場所でのライブが多い印象です。どのような意識でライブ活動をされているのでしょうか?
ライブは新しい発見を得られる機会になっていますね。ずっと楽曲制作だけをしていると、どうしてもマンネリ化してしまうところもあって。

ライブという限られた機材で工夫して演奏する場で、その会場ごとに「こういう音を鳴らすと、こういう響き方をするんだな」という気づきがあって、それが後になって楽曲を作るときにヒントになることもすごく多いです。
—2024年にはサウンドインスタレーション『no oto 展』もされていました。これはどのような試みだったのでしょうか?
いつも楽曲を作るときに、空間に音を配置していくイメージがあるのですが、これを実際の空間でやってみたいと思ったことがきっかけです。最初は家で、複数のスピーカーを置いて音を流してみました。これがいい感じだったので、場所を借りて展示として開催しました。
2024年に千葉・松戸で開催したサウンドインスタレーション『no oto 展』。空間デザインのための音楽「no oto」シリーズを、複数のスピーカーによってサラウンドで再現した。
空間に音を置けたことはもちろん、来てくれた方が満足してくれていたのをみて、すごく手応えを感じましたね。お客さんと話す時間も含めて、やってよかったなと思っています。
—ライブや展示は、きっと誰かの「生活」ともつながる場なんでしょうね。
そうですね。イベントによっては、アンビエントなどの穏やかで優しい音楽について、まったく知らない人もいると思うんです。その中でも、「なんとなくいいかも」と思ってもらいたいという気持ちがありますね。ライブの後に、自分じゃなくてもいいので、Spotifyとかでアンビエントを聴いてくれたりしたら嬉しいです。

—アンビエントの楽しみ方をもっと知ってほしい、という気持ちもあるんですね。
アンビエントってすごく狭い世界じゃないですか。存在すら知らない人も多くいますよね。でも、それだけだとちょっとつまらないというか、こういう音楽が発展って言ったらすごく偉そうですけど、広がっていかないと思うので。
なのでライブのときとかは、なんとなく認知してほしいというか、「よくわからないけどいいよね」みたいな感じで知ってもらいたいというか、そんな思いもありますね。
執筆・編集:石松豊
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Kenta Tanaka
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