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ARTIST 16

「日々の記録」から生まれた曲が、誰かの日常にそっと寄り添う。sukimaが大切にする「音楽を作っていない時間」

2025.12.22

撮影:Rudic films

アンビエントやエレクトロニカの文脈で、まるで光が優しく差し込むようなギターとピアノのアンサンブルを奏でる音楽家・sukima。自身が「日々を記録している」と語るとおり、その”情景が浮かぶ音楽”は、日々の暮らしの中から生まれている。

鍵になっているのは、「音楽を作っていない時間」を大切にする姿勢だ。かつて事務所所属のシンガーソングライターとして、月の半分以上ライブを行っていたsowhei時代から、現在のように仕事と両立しながらライフワークとして制作を続ける今に至るまで、その姿勢は変わらず、創作の軸になっている。

sukimaとしての表現、そしてsowhei / sukimaの始まりを辿っていくと、SNSを通じて世界中の誰かの日常のBGMとして聴かれるようになった背景や、“綺麗な音楽”だけでは届かない時代において「強い作品を生み出す哲学」も見えてきた。

見た景色や感じたことがそのまま音楽になっている

—sukimaさんは、もともとシンガーソングライター・sowheiとして活動していて、現在は歌のないインスト楽曲を制作されていますが、sowhei時代の音楽が今の活動につながっている部分はありますか?

歌っていたときも今も、やっていることは根本的に変わっていない気がしますね。歌があってもなくても、見た景色や感じたことがそのまま音楽になっている感覚があります。

sukima。20代からシンガーソングライター・sowhei名義で活動を続け、2022年からはsukima名義でも活動を開始。アンビエント、エレクトロの要素を含んだ、情景の見えるサウンドで日々を記録している。楽曲の制作はもちろん、アートワーク・映像制作も自身で手がけており、枠にとらわれない制作活動を展開している。(撮影:Rudic films)

—その”音楽になる”というのは、どのような感覚なのでしょう?

たとえば「fresh」という曲は、自分がドライブ中に聴きたい曲として作り始めたのですが、制作が進むにつれて、よく訪れている山梨県北杜市の景色が自然と浮かんできました。北杜市は長野県との県境に位置する自然豊かなエリアで、パン屋さんがあったり、牧草地でゆっくり過ごしたりできて、とても居心地がいい場所なんです。

1st アルバム『sprout』の4曲目「fresh」。アルバムアートワークには、自ら撮影した山梨県北杜市の清里高原大橋が映っている。

だからメロディや展開を考えるときも、「あそこで食べたパン、美味しかったな」「あの日は少しあたたかかったな」など、そのときの情景を思い出しながら、ギターをぽろぽろ弾いて肉付けしていきました。

—メロディやフレーズが先にあるのではなく、日々の体験から楽曲が生まれている感覚なんですね。

そうですね。メロディーから制作するのが定石だと思いますが、自分としてはそれが普通というか。逆に、テーマがないと曲を作れないですね。たとえば「草原で、夕方に風が吹き抜ける情景」や「家の中の陽だまり」から、音を紡いでいくこともあります。

山梨県北杜市の清泉寮。森と牧草地に囲まれた観光施設で、旅好きなsukimaのお気に入りの場所のひとつ。いつも「コンプレ堂」でパンを買い、この風景の中で味わいながら、のんびりと過ごすという。(撮影:sukima)

ギターをぽろぽろ弾く、と言いましたが、僕は譜面を一切読めないので、何の音を弾いてるのかもよく分かっていないんです。作曲は、自分が弾いた音に少しずつ要素を付け加えていくような進め方をしていて、コードや理論的な構築をしているわけではなく、すごく感覚的に作っています。

—その”楽曲の種”となるテーマは、どんなきっかけで生まれるのでしょうか?

音楽以外のことから生まれることが多いですね。たとえば今年、初めてハイキングに連れていってもらったのですが、そのときに感じたことが曲につながりました。好きなカフェに行ったことがきっかけで曲が生まれることもあります。旅行も好きで、いろいろな場所へよく行きます。

旅をテーマに制作した「Travel」。予定を詰め込みすぎず、1週間ほどかけて都会をゆったりと巡るような、穏やかな空気感の旅をイメージしたという。

だから、見たり感じたりする時間がないと、何も生まれてこないと思います。音楽を作っていない時間のほうが、音楽を作ることより大事だと思いますね。

「じゃあ自分も作ってみようかな」と思ったんです

—もともと活動されていたシンガーソングライター・sowheiは、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?

昔からずっとバスケをやっていたんですけど、大学に入るとオフシーズンがあって、練習や試合のない期間があるんです。そのときに、ギターで曲作りを始めたことがきっかけですね。ちょうどその頃、友人がオリジナル曲を作ってライブをしていたので、「じゃあ自分も作ってみようかな」と思ったんです。

sowhei「風の轍」。透明感がありながら、どこか雄大さを感じさせる歌と、やわらかな広がりを持つ弦の響きが特徴的な楽曲。アレンジはギター、バイオリン、チェロのみで構成されている。

—最初から曲を作っていたんですね。ハードルのようなものは感じませんでした?

言われてみて気づきましたが、たしかにコピーバンドをやったこともなかったですし、友達が作っているのを見ていたからなのか、特にハードルを感じたことはないですね。

—ギターを弾きながら歌うことについて、「自分に合っている」という感覚は当時あったのでしょうか。

なんとなく、子どもの頃からフォークギターの音が好きでした。最初に聴いたのは、父親が持っていたサイモン&ガーファンクルのCDでしたね。

アメリカのフォーク・デュオ、サイモン&ガーファンクルの「Homeward Bound」。アコースティックギターと声のアンサンブルが心地いい一曲。

フォークソング的な音楽はよく聴いていて、ごちゃごちゃした曲より、ギターと歌だけで表現しているスタイルがかっこいいと思っていました。ちなみに、最初に買ったJ-POPのCDは福山雅治です。

—sowheiとしては、現在は活動休止中になるのでしょうか?

休止中というか、sukimaを始めて、こっちの活動がおもしろくなっちゃった感じですね。

もともとsowheiとしては、事務所に所属していた時期もあり、ライブも頻繁にやっていました。20代の頃は月の半分くらいライブをしていましたね。自分で曲をつくり、歌詞を書き、地方も巡って。大きめのライブではサポートメンバーに入ってもらったりと、そういう普通の活動をしていました。

sukimaがインスト楽曲でよく聴いていた、アメリカのロックギタリスト・Steve Vai。6枚目のアルバム表題曲「The Ultra Zone」。

転機はコロナ禍ですね。ライブがまったくできなくなってしまい、sowheiとしての活動が止まりました。そこから、sukimaとしての活動が始まっていきました。

生活や景色が真ん中にあって、そのそばで音が鳴っているような感覚

—sukimaとしての活動は、どのようにスタートしたのでしょうか?

コロナ禍のときに、写真家・濱田英明さんを知ったことがきっかけです。Instagramで毎日のように、日常を切り取った映像が投稿されていました。公園で子どもたちが走り回ってるシーンや、海が波打っているだけの映像など。ただの”綺麗な映像”とは違っていて、すごく惹きつけられたんです。

濱田英明のInstagramより引用

投稿を眺めているうちに、「この映像に音楽をつけるなら、どんな音がいいだろう?」と考えるようになって。そのまま楽曲を作り始めたのがsukimaの始まりですね。作りたい音のイメージに合わせて、ギターだけでなく、弾けないピアノの音もDAWを触りながら取り入れていきました。

—「映像に音楽をつけたい」というのは、サウンドトラックを作るような感覚なのでしょうか?

あくまでも映像が主体というか、生活や景色が真ん中にあって、そのそばで音が鳴っているような感覚です。「音楽を中心に置かない」ということは、sukimaの音楽でいつも意識しています。

sukima「Melty」。濱田英明の影響から、自身でも映像を撮影し、ミュージックビデオを制作している。揺れる葉の影の映像には、忙しいと忘れがちな「光を見る気持ち」を忘れないように、という意味も込めているという。

—日々の体験から楽曲が生まれているという話もありましたが、「誰かの日常のふとした瞬間に、自分の音楽が流れていたらいいな」という気持ちはありますか?

そうですね。実際、Instagramの投稿で自分の曲を使ってくれることもあります。たとえば、レモンケーキを作った人が「Lemon」を添えてくれていたり、魚釣りをしている人が「fish」を使ってくれたり。そういうのを見ると嬉しくなりますね。「作ってよかったな」と思います。

東京・上野のROUTE BOOKSで開催されたイベント『ROUTE COMMON crafters market』のために制作されたsukimaの楽曲「Lemon」。のんびりとマルシェを楽しみながら見て回ってもらいたいという気持ちで制作したという。

—素敵な話ですね。sukimaさんが音楽で描きたい情景が、自然な流れで聴き手に届いているように感じます。

そうだと嬉しいです。今のsukimaとしての活動は、自分の好きなことができているというか、自分に合っていると感じています。ライフワークのように、作りたいときに作って、特にライブはしなくても、聴いてくれる人が増えている実感がありますね。

「Travel」は、ライフスタイルアイテムを手がけるブランド・KINTOの音楽プロジェクトで、持ち運びしやすい「TRAVEL TUMBLER」をテーマに制作された楽曲。sukimaは「こうした映像×音楽の取り組みをもっとやっていきたい」と語る。

配信収益としても、映像に使ってもらう部分の割合が大きいんです。自分がやるべきことをやって、それが届くべきところに届いている。この実感は、すごくモチベーションになっていますね。

”奥行き”が聴こえる音を出していきたい

—ライフワークという言葉もありましたが、普段は仕事もされているんですよね。仕事に疲れて「心が何も感じられない!つらい!」という瞬間はありますか?

ありますね。笑 そういうときは、やっぱり「音楽でテンションを上げる」というよりも、「音楽に癒されたい」と思います。だから、sukimaとしても、自分の心を取り戻すような音楽を、自分が求めて作っている部分があります。そういう気持ちもあって、制作は自分のペースで、無理なく進めることを大事にしていますね。

岡山県玉野市の渋川海岸。2023年に開催された「たまの渋川海岸音楽祭」に出演した際にsukimaが撮影した夕景。

—どこか無理していると、それも聴く人に伝わってしまいそうですもんね。

音楽って、言葉にしなくても伝わることがたくさんあると思うんです。作り手が考えていることや感じていることが、作品の奥行きとして現れる気がしていて。「ただ綺麗な音楽」を作るだけだと、それだけで終わってしまうというか…。

sukima「awe」。海に沈む夕陽の後の「マジックアワー」の時間をイメージした楽曲。神秘的なイメージに合わせて、クジラの鳴き声も取り入れられている。この楽曲を制作していた頃、クジラの鳴き声を流しながら、町田そのこ『52ヘルツのクジラ』を読んでいたという。

たとえば、世の中の流れや政治のこと、差別の問題など、いろんなことを考えながら音楽を作ると、作品としての幅が生まれるのかなと感じます。音楽に限らず、写真や映像でも、奥行きのある作品を作る人は、作品以外のことを考えている時間がたくさんあると思いますね。

—たしかに「作品の強さ」とか、「惹きつけられる何か」の有無には、そういった作り手の視座や思考の深さも関わっていそうです。

濱田さんの個展に行ったとき、直接お話を聞く機会があって、そのときにも「ただ撮影しているだけじゃないんだな」と感じました。ひとつの写真や映像を撮るためには、そこに写らない膨大な思考の蓄積が大事なのかなと。音楽でも、世の中に受け入れられてるミュージシャンには、そういう部分があると感じています。

藤井風「満ちていく」。sukimaは「おそらくラブソングだと思いますが、ただのポップスじゃないような気がします。祈りや信仰心を感じるというか..」と語る。

きっと瞬間的に撮った写真でも、僕とこの記事を読んでいる人では、同じ場所でも違うように撮れると思うんです。そういう無意識の視点は、写真を見た人にも伝わりますし、それがアーティストとしてのオリジナリティにもなりうると思っていて。だから、自分も”奥行き”が聴こえる音を出していきたいですね。

—AIが台頭している時代だからこそ、そういった「アーティストとしての個性」が伝わる音楽のほうが、より心に残る印象もあります。

昔観た映画に出てきた、「綺麗な音楽は世の中を隠す」みたいなセリフが印象に残っていて。でも、今の時代にはもう通用しないですよね。仕事ひとつとっても、昔よりも目に見えない負荷が多くなっていると思うんです。みんな、生きていく大変さとかしんどさを分かったうえで、音楽を聴いているんじゃないのかな。

sukima「warm」。冬の寒さの中にある寂しさとあたたかさ、その両方を音で描いた一曲。“木を手で擦った音”を録音し、サンプリングしている。

sukimaの音楽は「キラキラしている」かもしれませんが、その中に「ただそれだけじゃない何か」も感じてもらえるようになりたいですね。そのためにも、無理せず自分のペースで、いろいろなことを感じながらも、日々を過ごしていきたいです。

プロフィール

sukima

アンビエント、エレクトロの要素を含んだ、情景の見えるサウンドで日々を記録している。楽曲の制作、アートワーク・映像制作も自身で手掛けており、枠にとらわれない制作活動を展開している。

執筆・編集:石松豊

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