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AI時代に追求する「自分らしいメロディ」 初のナイロン弦ギター作品で見せる、まるやまたつやの新たな音像

2026.05.07

ギター1本で美しいメロディを奏でるフィンガースタイルギタリスト、まるやまたつや。4月には自身初となる、全曲ナイロン弦ギターによるEP『Frame of mind』をリリースした。タイトルには、20年の活動の中で少しずつ広がってきた自身の好みを踏まえつつ、今の「心の状態」に目を向けるという意味が込められている。

ナイロン弦ギターによる作品制作、そしてコンサート開催という新しい動きの背景を伺っていくと、他アーティストやAI時代を意識しながらも、ソロギタリストとして「自分らしさ」を磨き続けている姿勢が見えてきた。変化しながらも変わらない、”まるやまスタイル”の現在地に迫る。

結局、大事にしているものはメロディだなと

—今年2月には劇団「忍たま乱太郎」の劇中音楽を担当するなど、さらに活動が広がっている印象があります。最近はどんなことを考えていますか?

最近は、もっと引き出しを増やしたいと思って、ペンタトニックなどの基礎的な音楽理論を勉強したり、さまざまなジャンルの音楽を聴いたりと、新しいインプットを意識的に取り入れています。

まるやまたつや。フィンガースタイルギタリスト。1993年、北海道札幌市出身。2023年より宮城県仙台市在住。13歳の頃にクラシックギターを始め、14歳からYouTubeへの動画投稿をきっかけに音楽活動を開始。ギター1本で様々な奏法を用いながら、どこか懐かしくも都会的な音楽を奏でる。

これまではずっと感覚派でやってきたのと、ギター1本で表現していることもあって、30歳を過ぎたあたりから、このままだと似たような曲ばかりになってしまいそうだなと感じていて。

—改めて土台を広げている感覚なのでしょうか?

そうですね。たとえばMei Semonesさんという日系のアメリカ人の方がいて、めっちゃギターがうまくて。

Mei Semones「Zarigani」。ミシガン州アナーバー出身で、日本人の母を持ち、英語と日本語の両方で歌う。バークリー音楽大学でジャズを中心にギター演奏を学んだ。

ボサノヴァやジャズにルーツがあるような、自分の引き出しにないコードやニュアンスに触れることで、理論を勉強するきっかけになっています。

—ちょうどギターを弾き始めて20年目だと思います。まるやまさんにとって、ギターはどのような存在ですか?

もう、手足みたいな存在ですね。話したり書いたりするのと同じで、自分の感情や表現したいことを伝えるための手段というか。

あとは、拡声器みたいなものだなとも感じますね。指先で弾いてるだけなのに大きな音が出て、ものすごい感動を生んだりする。冷静に考えたら、ちまちま手を動かしているだけなんですけどね(笑)。

—これまでギターを弾くなかで、ずっと大切にしていることは何ですか?

結局、大事にしているものはメロディだなと思っていて。「どこで他のソロギタリストと違いを出すか」は常に悩むところなんですが、自分の場合はメロディに自分らしさが出るというか。テクニックで目立つよりも、覚えやすいメロディで印象付ける、というのが”まるやまスタイル”なのかなと思います。

それこそ「UREI」のサビができたとき、手前味噌ですけど「めちゃくちゃいいメロディできた!」って思ったのを、今でも覚えているんですよね。

2015年にリリースされた、まるやまたつや「UREI」

本当にいいメロディかどうかはさておき、少なくとも自分の代表曲になったし、サブスクでいろんな人に聴いてもらえたので。そういう自分にしかないメロディみたいなものは、ずっと意識してきたのかもしれないですね。

—”まるやまさん的なメロディー”をご自身で説明すると、どのような言葉になりますか?

うーん、言語化が難しいですね。でもリード曲っぽいものに関しては、1回聴いたら覚えられるとか、口ずさみやすいとかは意識していますね。繰り返しも多いですし、J-POPからのインスパイアも大きいのかなと思います。

サカナクションの「新宝島」でも、みんな「丁寧 丁寧 丁寧」と覚えちゃうじゃないですか。フレデリックの「オドループ」も、大学生の頃に鬼のように聴いてたんですけど、キャッチーなメロディが耳に残りますよね。

そういう意味で、ジャズやチルというよりは、僕はJ-POPバイブスを意識しているのかなと。サビに来たときの”ぐぐっと感”とか、なんか癖になるメロディが好きだし、そういうのを自分の曲からも感じてもらえたら嬉しいですね。

あえて言うと、AIには作れないような展開になっている

—今回のEP『Frame of mind』は、初の全曲ナイロン弦ギターによる作品集ということで、どのようなきっかけで制作が始まったのでしょうか?

最初にナイロン弦ギターで作品を作ろうと思ったのは、3〜4年前ですね。シンプルに音が好きだったのと、Instagramでもナイロン弦ギターが人気だったので、作りたいなと考え始めました。

2026年4月12日にリリースされたEP『Frame of mind』。自身初となる全曲ナイロン弦ギターによる作品集。「Frame of mind」は「心の状態」を意味しており、長年ギターと向き合うなかで変化してきた、その捉え方や心情を表現した作品となっている。現在のまるやまたつや自身の内面に目を向ける作品でもあり、アートワークに初めて自身がはっきりと映っている。

ただ、当時はいい感じのナイロン弦ギターを持っていなかったので、HAYASHI Guitars(以下:ハヤシギター)の林さんに相談して、新しいギターの制作をお願いしました。

まるやまたつやのHAYASHI Guitars。HAYASHI Guitarsは、製作の全行程を林泰弘ひとりで行い、ギター1本1本丁寧に手作りしているため、年間に数本しか制作されないという。細かい装飾が施され、ブリッジには入手困難な最高級木材・ハカランダの端材が使われている。ネックの幅は狭く、弦高は低く、弾きやすくセッティングされている。

それで2年ぐらい前にハヤシギターが完成したので、そこから曲を作り始めました。やっぱり、いいギターを手にすると曲を作りたくなるというのがあって。音もすごく優しくて、手に馴染む感じが気に入っています。

—EPの全5曲のうち、最初にできた楽曲はどれになりますか?

1曲目の「Sign」です。サビのメロディは、ハヤシギターが届いてその日のうちにできたものなんですよね。ハヤシギターに引き出されたように、すっと浮かんできて。ただ、サビ以外のメロディがなかなかしっくりこなくて、楽曲が完成するまでに1年以上かかりました。

まるやまたつや「Sign」。ハヤシギターを持つことで新たな曲が生まれる、という予感や兆候が曲名に込められている。

—Aメロから耳に残るメロディが印象的でしたが、時間をかけて作られていたんですね。

普通に作ると手癖というか、今まで作った曲に似てしまいそうだったので、いろいろ試した結果、僕にしては珍しく転調を取り入れています。

だいたいJ-POPだとサビで半音上がって、次のAメロで戻ることが多いと思うのですが、今回はBメロで全音、キーで言うと2つ上がっていて、サビに入った瞬間に元に戻るようにしていますね。

まるやまたつや「Sign」のMV。桜が満開の春、仙台の広瀬川沿いで撮影された。撮影から編集まで、すべて自身ひとりで制作されている。このDIY精神に影響を与えたひとつが、フリー素材を駆使して制作されたtofubeats「WHAT YOU GOT」のMV。「僕はこのスタンスがすごく好き。DIY精神は、ある種アーティストの個性になると思う」と語る。

—転調というアイディアも、音楽理論など新しいインプットを取り込む流れで生まれたものなのでしょうか?

そうですね。サビにどうやって入るかをずっと考えていたときに、普段あまり使わないコードを弾いたら好きな響きになって。そこから理論的な部分も踏まえながら、転調を取り入れました。

音の流れ的に、本来あまり行かないような進行にしているので、よく聴くと少し違和感を感じるようになっていて。あえて言うと、AIには作れないような展開になっているのかなと思います。

好きな場所を音楽にしてシェアしていく精神がかっこいいなと思って

—EPの2〜4曲目は、札幌やマレーシアなど、それぞれ特定の場所をテーマにした楽曲だと聞きました。こうした作り方は、以前からされていることなのでしょうか?

そうですね。たとえば『MAP』でも、函館や東京をテーマにした楽曲を制作しました。

2022年にリリースされたアルバム『MAP』。たとえば2曲目「Route 36」は、北海道の国道36号をテーマにした楽曲。

思い出というか、記憶に残っている風景や、お気に入りの場所に流れている空気をイメージしながら曲を作ることが多いかもしれません。

—何かきっかけがあったのでしょうか?

きっかけとしては、同じ札幌出身のトラックメーカー・Qrionが、札幌をテーマにした楽曲をよく作っていることにインスピレーションを受けています。

彼女はアメリカに住んでいるんですけど、地元のことがすごく好きで。たとえば「Miyanosawa」という曲があるんです。札幌には「宮の沢」という、東西線の端にある場所があって、僕も昔からたまに行っていたんですけど、そういう好きな場所を音楽にしてシェアしていく精神がかっこいいなと思って。

Qrion「Miyanosawa」。Qrionは、北海道札幌市出身の音楽プロデューサー、トラックメイカー、リミキサー、DJ。現在はサンフランシスコを拠点に活動している。まるやまたつやは大学生の頃に出会い、影響を受けたという。

この前も松本に行ったときに、雑貨屋さんでたまたま「Miyanosawa」が流れていて、テンション上がりました(笑)。

—2曲目「another place」は、どんな場所をテーマにしているのでしょうか?

仙台空港の夜をテーマにしています。仙台空港って、国際空港ではあるんですけど規模がそこまで大きくなくて、夜になると人がいなくなるんです。でも、仙台駅に向かう電車は本数が少ないので、タイミングによっては空港で待ち時間が生まれるんですよね。

広くて静かな夜の空港で、一人で椅子に座っていると、なんだか不思議な感じもするんですが、それにもだんだん慣れてきて。札幌とはまた別で、自分にとっての”もうひとつのホーム”に感じるようになって、楽曲のテーマにしました。

仙台空港。主に仙台から札幌に帰る時に利用するという。「新千歳空港に行くと”帰ってきたな”と思うのですが、最近は仙台空港に戻っても同じことを思うので、不思議な感覚があります」と語る。(撮影:まるやまたつや)

夜の仙台空港は、ちょっと夢の中みたいな感じもするので、音的には空間系のエフェクトを入れて浮遊感を出しています。ギター1本に聴こえないような音の流れを意識しましたね。

—3曲目「vista」は、シングルで夜の札幌の風景がアートワークになっていましたね。

これは夜のすすきのですね。昔からあの賑やかな雰囲気が好きなんですが、この交差点の眺めは、再開発で新しくできた屋外テラスから見られるようになったんです。その新しい視点がすごく新鮮で、楽曲を作りたいと思いました。

2023年にすすきのの新しいランドマークとして誕生した複合施設・COCONO SUSUKINO。その2階にある屋外広場「COCONO TERRACE」からは、すすきのの交差点を眺めることができる。「カニと東横インが映り込んでいるところがお気に入りですね。この景色は昔からあります」と語る。(撮影:まるやまたつや)

札幌は再開発でどんどん景色が変わっていくのですが、前の景色を懐かしく思う気持ちもありつつ、新しく移り変わっていく景色を前向きに捉えていきたい、という思いを込めています。

—4曲目「Melaka」は、マレーシアの都市・マラッカでしょうか?

そうですね。新婚旅行でシンガポールとマレーシアに行って、このマラッカが二人ともいちばん気に入ったので、曲を作りたいと思いました。

都会の喧騒から少し離れた、ちょうどいい田舎で。暑いんですけど海が近くて、お洒落なお店やご飯屋さんも多くて、すごく穏やかなんです。昼も夜も時間の流れがゆっくりに感じられて、そんなマラッカの街並みをゆったり散歩しているときのことをイメージしながら作りました。

マレーシアのマレー半島南部にある町・マラッカ。2008年に「マラッカ海峡の歴史都市群」として、ユネスコ世界文化遺産に登録された。(撮影:まるやまたつや)

自由な時間の流れを表現したかったので、楽曲としてはテンポが存在していないというか、よく聴くとテンポが取れないような作りになっています。

あとは、ナイロン弦の優しい音色をニュアンスとして取り入れたくて、僕の好きなクラシックギター奏者の雰囲気を少し意識しながら、コードワークを作っていきました。

AI時代に人間が勝てるのは、狂気だと思う

—EPリリースに引き続き、5月24日には自身初となるナイロン弦ギターのコンサートが開催されます。どのような部分にこだわったイベントになりそうですか?

ナイロン弦ギター1本で弾くので、今までのライブとはがらっと雰囲気が変わるかなと思います。普段アコギで弾いている曲も印象が違って聴こえたりと、新たな一面を感じてもらえたら嬉しいですね。

2026年5月24日(日) 夜に東京・尾山台のumで開催されるイベント「Tatsuya Maruyama Solo Concert “Sign”」。まるやまたつやによる初のナイロン弦ギターによるソロコンサートとなる

会場にもこだわっていて、umという落ち着きのある、とても素敵な空気感の場所で開催します。しっかり「聴く」ことにフォーカスしたいとも思っています。

東京・尾山台にあるピアノアトリエ・um。多面体スピーカー listudeが設置され、豊かな音の響きを楽しむことができる。

あとは、ライブならではの音作りやアレンジを楽しんでほしいですね。やっぱり音源と同じだったら、ライブを聴きに行く意味もあまりないと思いますし。こういうところも、AIにはできない表現かなと考えています。

—今日何度か出てきましたが、「AIにできないこと」については、よく考えるのでしょうか?

最近よく考えますね。ソロギターはAIに奪われないと思うんですけど、それでも常に危機感はあって。やっぱりこのAI時代に人間が勝てるのは、狂気だと思うんですよね。

—狂気?

ギターの練習量とか、動画のクオリティとか、何でもいいんですけど、何かに狂ったように取り組んで、そのレベルが異常値にいっている人が今後おもしろがられるのかなと。YouTuberでも、野草を探して食べたり、食べられる虫を探したりと、何かに狂っている人は見ていておもしろいじゃないですか。だから、どんどん狂っていきたいという気持ちはありますね。

まるやまたつや「Recollection」。もともとEPは4曲でリリースする予定だったが、偶然この曲が出来上がり収録された。アウトロはアルペジオを弾きながらハーモニクスやネイルアタックを混ぜており、技術的には難しいが、あえてギター1本で同時に弾くことにこだわったという。「ライブで見ていて楽しい部分になれば」とも語る。

—たしかにAIには狂気は作れなさそうですね。

そうですね。音楽的な部分で言うと、AIは”違和感”を作り出すことは苦手だと思います。「Sign」みたいな転調も難しいんじゃないかな。

あとは、実際にAIで音楽を作ってみると、びっくりするくらい覚えにくいメロディが出てくるんですよね。それっぽくは聴こえるけど、曲としては何のおもしろみもないというか。だから、いい違和感のある、覚えやすいメロディをこれからも追求していきたいですね。

プロフィール

まるやまたつや

フィンガースタイルギタリスト。1993年、北海道札幌市出身。宮城県仙台市在住。13歳の頃にクラシックギターを始め、14歳からYouTubeへの動画投稿をきっかけに音楽活動を開始。ギター1本で様々な奏法を用いながら、どこか懐かしくも都会的な音楽を奏でる。大学時代にSapporo City Jazz Park Jazz Liveにて250組以上の中から10組のファイナリストに選出される。2014年にはモリダイラ楽器主催のフィンガーピッキングコンテスト決勝にてオーディエンス賞を受賞。2019年から本格的にギタリストとしてのキャリアをスタートし、2024年現在SNSの総フォロワーは15万人を超える。2023年にはHeadway Guitarsから自身の監修モデル「HOC-NORTHBIRD」が発売された。近年ではテレビ番組や舞台、映像作品などへの楽曲提供・制作など活動の幅を広げており、ソロプロジェクト「Mu Ted」としてフィンガースタイルギターとLo-Fi HipHopを融合させた楽曲制作も行なっている。2023年より拠点を東京から仙台へと移し、現在は札幌・仙台・東京の3拠点で活動を行う。Headway Guitars、SAVAREZエンドーサー。

執筆・編集:石松豊

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