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ARTIST 7
BGM性と自己表現の葛藤。Watasinoが環境音楽、LoFiを経て”Ambeat”に出会い「孤独に寄り添う音楽」を作るまで
2024.11.05
撮影:#ISO1638400
2020年からLoFiジャンルを中心にリリースを重ねてきたビートメイカー・Watasino。2024年夏に配信リリースされたアルバム『You are not alone』は穏やかで涼しげな影を感じる作品で、アンビエント(ambient)とビートミュージック(beat music)を掛け合わせた”Ambeat”と称された。
なぜWatasinoはAmbeatの作品を制作したのか? その答えには「Watasino」名義が始まる前の音楽活動から続く「BGMと自己表現のバランス」についての葛藤が関わっていた。
また『You are not alone(あなたは一人じゃない)』というテーマは、自身の孤独な経験がきっかけとなっているという。Watasinoが考える「孤独に寄り添う音楽」について話を伺った。
新しいシーンを作れるという予感を持っていました
—『You are not alone』のリリース背景を教えてください。
去年の1月にSETO CHORD MUSICを主宰するOunakさんが、Twitterで「アンビエントとビートミュージックを掛け合わせた”Ambeat” というジャンルを作りたい」と投稿していたんです。それを見て「自分のやりたいことって、これじゃん!」と思って。すぐに「一緒にやりませんか」とDMを送って、Ambeatのアルバムとして作ったのが『You are not alone』でした。
—Ambeatについて、最初はどのようなイメージを持っていましたか?
アンビエントとビートを足したものって、実は意外とないんじゃないかなって感じてました。ここで言うビートってヒップホップ的なものを指していて、とはいえ踊れるというよりかは落ち着くチルな方向性なんですけど。例えばBoards of Canadaは近いけど、エレクトロニックな要素が強い。そこよりもグルーヴ感のあるビートや、アンビエント的な抽象的なニュアンスを少し強めることで、新しいシーンを作れるという予感を持っていましたね。
—Ambeatに惹かれたのは、Watasino名義の前にアンビエント音楽を作っていたことも影響していますか?
そうですね。音楽活動を始めた2010年頃は、バンドと並行してソロでもギターの即興演奏的なパフォーマンスをやっていて。アンビエントというよりかは、環境音楽というようなニュアンスでやってましたね。言葉の響きもですが、自分のふわふわとした空間形のギターサウンドは、どちらかというと背景的なものなのかなという意識がありました。
演奏場所もライブハウスに限らず、ギャラリーやカフェ、大学の講堂などでやるような機会が多かったんです。だから思いっきり自分を見せるというよりかは、BGM的に一歩下がったような演奏を意識してました。
単純につまらなかったんですよ、音楽をやっていなかった期間の自分の人生が
—今はWatasino名義でLoFi楽曲を制作していますが、環境音楽からの移行はどのような流れだったのでしょうか。
それがですね、2013年ぐらいに音楽を一度やめてるんですよ。
—そうだったんですか。
バンドで年間50本以上ライブをやっていたのですが、メンバー全員マーケティング的な才能がなくて、全く花開かなかったんです。その後はなんとなく機材を買ったり、ときどき遊びでDTMをしたりしていましたが、ちゃんと楽曲を作って発表することは5、6年やってなくて。で、2020年からWatasino名義で再開したんです。
—何か再開するきっかけがあったんですか?
ちょうど会社員からフリーランスに独立するタイミングだったので、「自分の人生変えていくぞ、やりたいことは全部やる」という気持ちが高まっていて。やっぱり音楽をやりたいと思ったんです。
—音楽を作るということが、自分にとって大切だった。
そういうことですね。単純につまらなかったんですよ、音楽をやっていなかった期間の自分の人生が。他の趣味を見つけたり、色々遊んだりもしたんですけど、あんまり満たされるものがなくて。ただバンドはもうこりごりだったので、、笑 自分のペースでできるように一人で再開しました。
当時はLoFiを作ろうという意識はなくて。tajima halさんやKudasaibeatsをよく聴いていたので、「こういう音楽って作りやすそうだな」という気持ちで作り始めたんです。でもやってみたら意外と奥が深くて。だんだん続けていくうちに、自分の音楽を説明するときにジャンルで言った方が分かりやすいので、LoFiと言うようになりましたね。
自分の表現がLoFiでいいのか葛藤していた
—LoFiの奥深さは、どんな部分に感じていますか?
まず、ループする音楽をインストで表現することですね。どうやって途中で飽きさせずに集中力を持って聴かせるのか、という仕組み作りがめちゃくちゃ大変なんですよ。
あとLoFiってBGMという言葉とよくセットになっていると思うんですけど、本当にBGMのためだけに作ると、すごくつまらなくなっちゃうんですよね。それこそ個性がなくなるというか、のぺっとした起伏のない音楽になる。逆に個性を出しすぎてもうるさくなってしまうので、自分なりのニュアンスを出す塩梅が難しいなと感じています。
—なるほど。Ambeatは、Watasinoさんの昔と今の経験が交わっているという意味でも、ひとつの個性になりうる言葉だったんですね。
本当に自分にとってぴったりの言葉でした。『You are not alone』を作る前は、Watasinoとして活動して3年ほど経って、ちょうど自分の表現がLoFiでいいのか葛藤していた時期だったんです。LoFi自体はいいジャンルだと思いますし、素晴らしいアーティストもいっぱいいるんですけど、良くも悪くもBGMであるという前提が音楽の可能性を狭めていると感じたんですよね。
—以前は背景を意識して演奏していましたが、今は自分らしさを伝えたいというマインドに変化したんですね。
「自分は背景なので、皆さん好きなように聴いてください」と演奏しても、「なんかいい雰囲気だったよ」だけで終わってしまい、自分の音楽が伝わらなかったりするんですよね。音楽のBGM性と自己表現をどう両立させるかは難しい話ですけど、BGMに寄りすぎると音楽そのものが見えづらくなっていくというか、核の部分とか本質から遠ざかっていくような感覚があって。
—確かに、例えばなんとなくプレイリストを流していると、特に誰の曲かを意識していないですもんね。その中でも「この曲作ってるの誰だろう」とか「この人の曲もっと聴きたい」と思ってもらいたいということですね。
うん、そうですね。
内側に向かう作品だからこそ、孤独な誰かに寄り添える
—アルバム名の『You are not alone(あなたは一人じゃない)』は、どのように生まれたのでしょうか。
Ambeatのアルバムを作ろうとなったとき、自分だから伝えられるコンセプトやメッセージが必要だと思って。いろいろ悩んだ結果、今まで生きてきて悩んだことや辛かったことをテーマにして、それをポジティブな方向で伝えたいと考えたんです。自分にとってそれは、孤独だったんですよね。
Watasinoがなんのために音楽をやってるかって、この世界のどこかにいるもう一人の自分のためにやってる。
もう一人の自分とは誰か?
俺と似た性格、感性、環境、境遇、なんでもいいんだけど、俺となにかを分かち合える誰かのことだ。
俺はあなたのために音楽をやっている。… pic.twitter.com/C6V363MQ1B— Watasino | Alternative Beatmaker, hamon (@watasino_beats) September 8, 2024
—どのような経験があったんでしょうか。
もともと友達を作るのがあんまり上手じゃなくて、かっこよく言うと一匹狼タイプだったんです。バンドをやっていた頃は強制的に人付き合いが生まれていたんですけど、辞めてからはそれもなくなり、黙々と会社員として働いていました。
2017年に会社を辞めたくなって上司に相談したら、「とりあえず場所を変えてみよう」と提案されて。一年間だけ那覇に住んでリモートワークしたんですが、その時本当に一人も友達ができなかったんですよね…。一年間誰とも話さなくて、ほぼほぼ引きこもっていて、かなりしんどかったんです。だから当時の自分を癒したいという気持ちもありました。
—この頃に慰められた音楽はありますか?
Puma Blueかな。当時Puma Blueがデビューしたぐらいの時期で、夜中に家でタバコを吸いながら『Swum Baby』というEPをよく聴いてました。
—先日ある取材で「アンビエントって一人で聴くための音楽なのかも」という話をしたのですが、Ambeatとしての『You are not alone』も、聴き手の内面に向かうような作品になってますね。
内側に向かう作品だからこそ、孤独な誰かに寄り添えると信じてますね。音楽って、作者の経験や感性が絶対に滲み出てくるんですよ。ロックだとよく魂と言ったりしますけど、もう少し感覚的なもので、例えば料理で言う味に近いのかな。音楽を聴いたときに「あ、この味知ってる」「自分もこういう経験したことある」と感じるというか、音楽はムードや気持ちをシェアできると思ってて。
で、それをシェアするためには、作り手側の自己開示が必要だと思うんですよね。『You are not alone』ではギターによる即興演奏を多用しているんですけど、自分のマインドをさらけ出すような気持ちで弾きました。「伝わる人には伝わる」と思ってますね。
—なるほど。また別の取材では「即興演奏から優しさを感じる」という話をしたのですが、人が演奏した音には感情が含まれていて、聴き手に伝わっていく部分があるんでしょうね。
そうそう。だから例えば先ほどのPuma Blueでも、歌詞の英語は全然分からないし、Puma Blueがどういう経歴でどういう人生を送ってきたかも知らない。だけど、その音楽が持ってるムードとか説得力みたいなものがなんとなく体の中に入ってきて、癒されるような感覚があるんですよね。『You are not alone』も、誰かにとってそういう「孤独に寄り添う音楽」でありたいと思ってますね。
—今後もAmbeatの作品を制作していく予定ですか?
自分の本流的な部分としてAmbeatの作品を作りつつ、Ounakさんと一緒にジャンルの確立を目指していければと思ってますね。最近は『You are not alone』の続編として、『Keep the window open』というシリーズで楽曲をリリースをしています。それとは別にアッパーな音楽だったり、ビートミュージックだったりもバンバン出していけたらと。オルタネイティブに自分の表現を続けていきたいです。
プロフィール
Watasino
沖縄県宮古島出身、東京都在住のプロデューサー。コレクティブ/レーベルの hamon 創設メンバー。日本の Japanolofi Records を始め、Chill Moon Music や Tsunami Sounds などの海外レーベルからもリリース重ねる中、映画『真・事故物件 / 本当に怖い住民たち』の音楽制作に関わるなど徐々に活動の幅を広げている。2023 年には“孤独からの開放”をコンセプトとしたアルバム『You are not alone』をSETO CHORD MUSIC よりリリース。Lo-Fi Hiphop のプロデューサーとしてキャリアをスタートしながらも、オルタナティブな領域にもアプローチする幅広い音楽性が特徴的。音楽的な影響元は DJ Krush、Flying Lotus、Teebs、Radiohead、Idealism など。
執筆・編集:石松豊
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『Ucuuu』は、穏やかな音楽のある生活風景を紹介するAmbient Lifescape Magazine(アンビエント・ライフスケープ・マガジン)です。
アンビエント、エレクトロニカ、インストゥルメンタル、アコースティックギターやピアノなど、「穏やかな音楽」は日常にBGMのように存在しています。
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