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水色デザインが目指す地域コミュニティの形。音楽イベントが、世界を少しずつ優しくする

2024.01.05

撮影:清水舞

フリーランスのUI/UXデザイナーでありながら、音楽イベントの企画や映像作品の制作など、表現の分野で多岐にわたり活動している水色デザイン。

ライブイベントではプロジェクターで映像を投影し、演奏に合わせて水を使って光のゆらぎを生み出すという特徴的な映像演出をおこなっている。

15年にわたり30以上のイベントや展示に携わってきた中で、いま特に力を入れているイベント『音と暮らし』について伺うと、地域コミュニティと文化のよりよい関わりのヒントが見えてきた。

地域に文化的な体験が増えれば、そこに暮らす人たちの人間性が豊かになる

—なぜ『音と暮らし』を始めたんですか?

地元で音楽イベントがあるといいなと思ったのが最初ですね。町をふらっと歩いているときにライブに出会うという体験をつくりたくて。

「水色デザイン」という名前でデザイン制作、イベント企画、映像作品づくり(インスタレーション)など幅広い活動をおこなっている。

—会場がカフェやギャラリーなのも、音楽にふらっと出会って欲しいからなんですね。

はい。町の中で音楽が鳴っていたら、足を止めて聴いてしまうこともありますよね。音って、映像や絵画よりも心の深いところにぱっと届く力があると思うんです。カフェなど日常に近い入口から、芸術文化に触れるきっかけをつくりたいと考えています。

morimoto naokiが演奏する『音と暮らし』vol.1の様子。会場のブックカフェ&ギャラリーCOYAMAとは、2019年の台風被害の際に本を寄付したことから繋がりが生まれた。

—目指しているのは、より多く文化に触れてもらうことでしょうか?

そうですね。地域に文化的な体験が増えれば、そこに暮らす人たちの人間性が豊かになると思っていて。自分がイベントをやることで、その地域や大きく言えば世界が、ほんのちょっとでも優しくなればいいなと。

—確かにそれぞれの人の「世界」って、町というか自分の半径数メートルから影響受けますもんね。

それぞれの暮らしに音を届けたい、という思いが『音と暮らし』という名前にもなっています。音楽に限らず、芸術文化を広く届けていきたいですね。

水色デザインが今まで出会ったアーティストの楽曲を中心にセレクトされている

町との関わりを実験させてもらっている

—『音と暮らし』の他にも、地域に根ざしたイベントに関わっているんですね。

引越しの影響で、『音と暮らし』はvol.2から経堂のaki cafeで開催しています。aki cafeでは、自主企画に限らず様々なイベントをサポートしてますね。

『モンブランな日曜日』のフライヤー。過去にaki cafeで開催したイベントに参加した方が企画者となり、水色デザインがサポートして実現した。

—aki cafeを活用してもらいたいという気持ちもありますか?

aki cafeさんとはイベントを通じて繋がったのですが、その後ショップカードと名刺を作らせてもらったりと付き合いがあって。そうした流れで、ここでコミュニティづくりができないかと提案させてもらったんです。

AKi Cafeに提案したコミュニティづくりの図。体験設計を重視する部分に本職のデザイン思考が活きている。

—実際に様々なイベントが開催されてますし、コミュニティの広がりを実感できますね。

そうですね。自分としても人や町との関わりを実験させてもらっている感覚です。演奏いただいたアーティストには、今後は自分を介さなくてもライブしてもらえたら嬉しいと伝えてて、ぜひ継続して色んな人に活用されたらいいなと思っていますね。

毎日のように近所のおじいちゃんおばあちゃんがやってきて、お茶を飲んで帰っていく日々だった

—地域コミュニティへ関心を持つようになったきっかけは何でしょうか?

一つは震災ですね。制作活動ができなくなった期間があって。何か作ったことで状況が変わる訳でもない、という無力感がありました。当時は住んでる町にも被災された方々が避難していて、ときどきカップ麺などを届けに行ってましたね。

品川の原美術館での最後のライブイベント『ひかりの感触』。Ucuuuを運営するorange plus music石松との共同企画。

「生命はひかりから生まれた共同体」という視点から、「ひかり」を意識した作品づくりをしている。ライブでは、演奏に映像演出でコラボレーションすることも多い。写真は根岸なつかし公園旧柳下邸で開催した『花と器/ここに生ける花、こころに生ける花。』の様子。

—被災者のために、できることをされていたんですね。

なにかをやったというより、なにも出来なかったなという想いがあります。あとは同じ頃に、いつも通る道で路上生活されている方がいて。多少のお金を渡したり、行政の窓口に電話してみたりしたんですが、状況はあまり変わらずで。

そんなこともあって、セーフティーネットがなかったり、居場所がなかったりという状況に対して地域が無関心なことに違和感を感じ始めたんです。これが「どうすれば地域の助け合いがもっといい形に繋がっていくのか」を考えるきっかけになっていきました。

—地域の助け合いを生みたいという気持ちが、今のイベント企画に繋がっているんでしょうか。

思い返せば、子供の頃は地域の助け合いをもっと感じられていた気がするんです。田舎で生まれ育ったんですが、実家が小さなお店をやっていて。毎日のように近所のおじいちゃんおばあちゃんがやってきて、お茶を飲んで帰っていく日々だったんです。

—水色さんの暮らしの中には、自然に地域の人と関わる時間があったんですね。

そうですね。地域コミュニティの在り方みたいなものに対して、もちろん村社会の良くない面もあると思いますが、いい部分を今の時代や都会の中でフィットさせられないかなと。そういう原体験が今のイベントや表現に繋がっていると思いますね。

aki cafeで開催された“THE Local Gathering”〜 ゆるやかに集う地域コミュニティ・イベント 〜 の様子。

誰にとってもたくさんの居場所がある世界をつくりたい

—コミュニティづくりに関連して、今後目指していることはありますか?

aki cafeの活性化という部分はもちろんですが、今後はデザインの方でも地域ブランディングにもっと関わっていきたいですね。

『はむら市民と産業のまつり』のロゴとポスター制作を担当。どうしたら地域文化がさらに醸成されていくか、というコンセプトづくりから提案した。

—デザインの仕事、イベント企画、そして作品制作と、今はコミュニティという同じキーワードで繋がっているんですね。

そうですね。コミュニティ(共同体)をつくりたいというか、誰にとってもたくさんの居場所がある世界をつくりたいと思っていて。多様な人が「ここは自分の居場所だ」と思えるコトづくりに関わっていきたいですね。

プロフィール

水色デザイン

「コトをリノベーションする」をテーマに、自分たちがワクワクするコトをひとつ作れたら、そのひとつ分は世界が良くなると信じてデザインとアートの垣根を越えて活動を展開。「地域の土壌を芸術文化で耕す」為の小さな試みとして、イベント企画『音と暮らし』を主宰。

執筆・編集:石松豊

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