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ARTIST 13
Paniyoloが奏でる、日常に寄り添う音楽。『いつものひのおわりに』に込めた穏やかな余韻と、ポップス的なやさしさ
2025.07.12
撮影場所:MELLOW THINGS.
優しいナイロン弦のクラシックギターを奏でる、Muneki Takasakaのソロプロジェクト・Paniyolo。その変わらない音色は、長年にわたって多くの人の日常の中で、BGMのように流れ続けている。
そんな音楽性を象徴するのが、10年以上にわたり続けている演奏会のタイトル『いつものひのおわりに』だ。今回は、この言葉を入り口に、”Paniyoloらしさ”を探っていった。
かつて、自分のために家で弾いていたギターは、大切な友人との出会いやライブ活動を通して、外の世界へと広がっていく。その背景には、Paniyoloが音楽を作る上で大切にしてきた「ポップス的な精神」も息づいていた。
「今日はいつもよりちょっといい日だったな」と思ってもらえたら
—パニさん(Paniyolo)は、『いつものひのおわりに』というイベントを長く続けていますよね。最初は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?
2015年の4月に『たまのこと』というアルバムを発表して、その年の6月に、三軒茶屋のカフェで開催した演奏会が、最初の『いつものひのおわりに』でした。僕はアニーさん(中村大史)とデュオで演奏して、ゲストには優河さんをお呼びしました。

—『いつものひのおわりに』は、『たまのこと』のリリースライブから始まったんですね。『たまのこと』は先日、新装版もリリースされていましたが、改めてどのような作品か教えてください。
日常の中にある、ちょっとした”たまの出来事”をテーマにしたアルバムです。例えば『家族の字』という曲は、ときどき見る家族の字に「こういう字を書くんだな」と思ったことが曲になっています。ちなみに、英題は『Sometimes』です。
2015年4月にSchole Recordsからリリースされた、Paniyoloの3rdアルバム『たまのこと』。2025年4月には新装版もリリースされた。ゲストギタリストとして、tricolorやJohn John Festivalなど北欧音楽の文脈でも活躍する中村大史が伴奏を弾いている。配信版の曲名は、ストリーミング配信の都合で英語になっている。
—演奏会のタイトルに『いつものひのおわりに』と名付けたのは、どのような気持ちからだったのでしょうか?
『たまのこと』に対する言葉として、より日常的なイメージの「いつもの日」という言葉を使おうと思ったんです。演奏会に来てくれたお客さんに、「今日はいつもよりちょっといい日だったな」と思ってもらえたらいいな、という気持ちを込めていますね。


2024年9月に栃木・Mellow Thingsで開催した『いつものひのおわりに』。企画は灯しび(yuri kawabe)。フライヤーのコピーには「沈んで行く夕陽を見ると、人は明日のことを考える」と書かれていた。
—もう10年ほど『いつものひのおわりに』の名前が付く演奏会を開催していますが、そういった当初の気持ちは、今も変わらずにあるという感覚なのでしょうか?
そうですね。表現したい音楽は大きくは変わっていなくて、ずっと「日常の中の音楽」というテーマで活動を続けています。
曲の終わりでは、余韻をできるだけ長く残すようにしていて
—演奏中は、どんな意識でギターを弾いているのでしょうか?
カフェなど、ライブハウス以外の場所で演奏することが多いので、その空間の雰囲気や、聞こえてくる環境音を感じながら弾くことが多いです。雨の音や鳥の声などに合わせて、セッションするように弾くこともあります。
2025年6月にPaniyoloが出演した、岡山・belkで開催された『読書のための音楽会 vol.6』。イベントタイトルは、10年以上『読書のためのBGM演奏』を続けている宮内優里が初回に出演したことが由来。
環境音やギターの音、その空間の雰囲気が混ざり合って、すべてがひとつになったような音楽を感じてもらえたら、うれしいなと思っています。
—演奏しているときに、「ひとつになってるな」と感じる瞬間はありますか?
ありますね。特に、余韻が心地よく響いているときに、そう感じます。
曲の終わりでは、余韻をできるだけ長く残すようにしていて、何も弾かずにしばらく止まっていることもあるんです。演奏が終わったあとに、お客さんから「すごい勇気ですね」と言われたこともありました。笑
—余韻というか、弾いてない”間”の時間も含めて楽しんでもらいたい、という気持ちなんでしょうか?
聴き方は自由というか、好きなように聴いてもらえたらいいなと思います。寝てもらっても大丈夫ですし。
でも、基本的に僕の音楽はBGMになるようなものなので、「聴いていることを忘れてしまうような音楽になったらいいな」とは思っていますね。集中して聴いていなくても、その音が鳴っていることで空間の雰囲気が変わって、少しだけ彩られる。そんな音楽になれたらうれしいです。
Paniyoloは、自身の音楽が「本を読むのに邪魔にならない」「本がより集中して読める」と言われることが、嬉しいと語る。そんなPaniyoloが本を読むときによく聴いていた音楽は、日本の電子音楽家・Miroqueが2004年にリリースしたアルバム『mimi koto』。あまりビートのない、ランダムな感じのシンセサイザーがメインになっており、「どんなテイストの小説でも、その物語の広がりをより感じられる」と語っている。
—そう思うようになったきっかけは、何かあったのでしょうか?
うーん、なんだろう。最初は特に「BGMを作ろう」と思っていたわけではなかったですね。でも自分がやりたい音楽を作っていたら、自然と少しずついろんな人に聴いてもらうきっかけが広がっていって…。
2ndアルバムの『3月が眠る』を気に入って聴いてくれた美容師の方がいて、「よく髪を切っているときに流しているよ」と言ってくれたんです。そのときに、「自分の音楽は、仕事を邪魔しない音楽なんだ」と気づいて。自分の居場所を見つけたような感覚でした。
2010年にSchole Recordsからリリースされた、Paniyoloの2ndアルバム『3月が眠る』から『街溶け』。CDショップ「雨と休日」の1周年記念として制作された作品。2019年には、中村大史によるアコーディオンや、渡辺明応によるウクレレ・スティールパンを加えた再録版が制作された。
—そういった背景が、『いつものひのおわりに』への想いや、「日常の中の音楽」というテーマにもつながっているのかもしれないですね。
そうかもしれないです。でも最近は、どんどんシンプルに考えるようになってきていて。「いかに弾かないか」というか、空間に馴染むような余韻の心地よさを、ただ意識していることが多いですね。
ただただ弾けるようになりたい
—もともとクラシックギターを始めたのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?
ギターに興味を持ったきっかけは、実はスピッツなんですよね。中学生になって音楽を聴くようになり、ミュージックステーションを見ていたら、スピッツが『ロビンソン』を演奏していて。
そのとき、バンドサウンドに混じるアコギの音を聴き取れなかったんです。音を聴き分けられなかったのか、家にあったブラウン管テレビの音質が良くなかったからなのか…。それで「ギターってどういう音なんだろう?」と、確かめたくて弾くようになりました。

ちょうど押入れの奥に父親のアコギとクラシックギターがあったので、最初はCやAmなどの簡単なコードを教えてもらって、適当に弾いていました。
でも、ぜんぜん上達しないから、だんだん「誰かに基礎をちゃんと習いたい」と思うようになって。それで中三のときから、クラシックギターの教室に通い始めました。『さくらさくら』から始まり、『禁じられた遊び』などの定番曲を、楽譜を見ながら弾いていきましたね。
—「ギターについてもっと知りたい」という方向に進んでいったんですね。
そうですね。でも当時は、ただただ弾けるようになりたい、という気持ちだけでしたね。
教室には5年間ほど通っていました。高校のときも、教室を優先して部活に入らず、家でギターを弾いていました。だけど、発表会など人前で弾くことは、あまり好きではなかったですね。
2025年5月にリリースしたシングル『our』。Paniyoloは最近の感覚について「どんどんシンプルになってきている」「”いかに弾かないか”を意識している」と語る。
中高時代の友達にも、ギターをやっていることは誰にも言っていなくて、家でこっそり弾いていました。
自分がライブをするだけで、こんなに世界が広がるんだ
—オリジナル曲を作り始めたのは、いつ頃からだったのでしょうか?
20歳くらいのときですね。バイト先で出会ったタケザワくん(Yoshinori Takezawa)が、音楽好きな人で。曲作りに興味があることを話したら、宅録の方法や機材について、ひとつひとつ教えてくれたんです。
最初は、小さなデジタルレコーダーを買って曲を作っていました。タケザワくんとは、お互いに曲を作っては、聴かせあったりしていましたね。
2021年にリリースされた、PaniyoloとYoshinori Takezawaのコラボシングル『Utatane』。Yoshinori Takezawaは、音楽家としてSchole Recordsからアルバムをリリースしているほか、画家や映像作家としても活動している。Paniyoloの活動初期には、ライブでギターの伴奏を担当したり、配布するフライヤーをデザインしたりなど、さまざまな形でサポートしていたという。
—先ほど「人前で弾くことは好きではなかった」とおっしゃっていましたが、ライブはどのようなきっかけで始められたのでしょうか?
だんだん曲ができてきた頃に、別の友人から「ライブもやった方がいいんじゃない?」と言われて、なんとなくふわっと始まったんです。2006年に下北沢のmona recordsで演奏したのが、Paniyoloとしての初ライブでした。
2009年にSchole Recordsからリリースされた、Paniyoloの1stアルバム『I’m Home』。アートワークはYoshinori Takezawaが担当した。宅録を始めた当時は、好きなバンドの真似をしたり、ビートを入れてみたりと、ギターだけではない形の楽曲を制作していたため、その名残が少し垣間見える作品になっている。
その頃、SNSといえばmixiくらいしかなかったんですけど、そこでライブ告知をすると、意外と来てくれる人がいたんです。だから、ライブのたびに新しい出会いがあって、これはすごく大きなことでしたね。
それまでは、友人もそんなに多いわけでもなかったのですが、「自分がライブをするだけで、こんなに世界が広がるんだ」と実感しました。SCHOLEのメンバーもそうですし、あの頃に出会った人と、今もつながりがけっこうあったりしますね。
—パニさんはコラボ作品をよくリリースされていますし、自分の企画イベントにもPAの方を紹介してくださったりと、人のつながりを大切にされている印象もあります。
でも、けっこう不思議なもんだなと思います。自分がやりたいように好きな音楽を作って、勝手にライブをやってるだけなので。そこに来てくれる人がいて、それがどんどんつながっていくのは、毎回不思議な感覚にはなりますね。
2019年にSchole Recordsからリリースされた、Paniyoloとスティールパン奏者・渡辺明応のコラボアルバム『空も少し』。2023年には、2作目のコラボアルバム『家並み』もリリースされている。
—ある意味では、自分のやりたくないことをやっていないというか、無理をしていないという感覚もあるんでしょうか?
うーん。音楽に関しては、「やれることがこれしかない」という感覚かもしれません。自分にできることを、自分のやれる範囲で、精一杯やっているというか。それを突き詰めていった結果が、今のスタイルになっているんだと思いますね。
音楽をつくる上で重要なのは、コミュニケーションを取ること
—パニさんの音楽は、穏やかなインストでありながらも、歌うようなメロディが印象的です。そういう意味で、王道のクラシックというよりも、ポップス的なルーツを感じます。
たしかにクラシックギターを習ってはいましたが、クラシック曲をよく聴いていたわけでもなくて。どちらかというと、流行りの音楽を聴いていました。目標とするクラシックのギタリストも、特にいませんでしたね。
Paniyoloの音楽性に影響を与えた音楽として、2枚のアルバムを教えて頂いた。1枚目は、LITTLE CREATURESなどで活躍する青柳拓次のソロプロジェクト・Kama Ainaの「Club Kama Aina」(2006 Rumraket)。インスト作品として、ひとつの指標となる作品になったという。
インストの楽曲ではあるけれど、「ポップスをやりたい」という気持ちはあったんですよね。といっても、音的な意味というよりは、もっと精神的なところで。感覚的に分かり合えるような音楽にしたいというか……。
—ニッチなものを目指すのではなく、「多くの人にとって、寄り添ってくれるような音楽を作りたい」という気持ちなのでしょうか?
そうですね。やっぱり音楽を作る上で重要なのは、コミュニケーションを取ることだと思っています。「分かってくれる人にだけ分かってくれればいい」とは思わないんですよね。
もちろん、自分が好きな音楽を作っているんですけど、できれば分かって欲しいというか。「こういう音楽ありますけど、すごく良くないですか?」と、提案したいんです。できるだけ、自分のためだけじゃなくて、誰かに届いたらいいなと思っていますね。
2枚目はmoose hill(伊藤ゴロー)の『wolf song』(2001 , 333discs)。ギターがメインの、音数が多くないインスト作品。Paniyoloは、影響を受けた部分として音の印象を挙げており、「気持ちがフラットになる、落ち着く音」と語っている。
—パニさんにとっては、音楽の方が言葉よりも伝えやすい感覚なのでしょうか?
言葉で何かを伝えることはあまり得意じゃないですし、音楽がいちばん表現しやすい感覚はありますね。音楽を通してコミュニケーションが取れたら、最高だなと思っています。と言っても、自由に聴いて楽しんでもらえたら、それで十分です。
プロフィール
Paniyolo
ギタリストMuneki Takasakaのソロプロジェクト、Paniyolo。1982年、福島生まれ。2006年よりPaniyoloとしての活動を開始。音楽レーベルSCHOLE(スコーレ、古代ギリシャ語で余暇を意味する)から、ナイロン弦ギターの作品を発表し続けている。主な作品は、中村大史をゲストに迎えたギターデュオアルバム『たまのこと』、スティールパン奏者・渡辺明応との『空も少し』やボーカリスト・太田美帆との『空と花』など。丁寧に紡がれるナイロン弦の響きは、聴いていることを忘れてしまうほどに儚い。その柔らかな音色は日常を淡く彩り、穏やかな時間を作り出す。
執筆・編集:石松豊
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