Ucuuu

MAGAZINE

REPORT 6

新緑の図書館に流れた、やさしい音と平和な時間。宮内優里×Tomotsugu Nakamuraによる『読書のためのBGM演奏』レポート

2025.05.08

2025年4月19日(土)の昼、東京・多摩市立中央図書館にて、図書館とUcuuu共催による音楽イベント『「読書のためのBGM演奏」 Music For The Story III - 読書と静かな即興演奏 - vol.5』が開催された。

出演は宮内優里とTomotsugu Nakamura。およそ3時間半にわたり、ゆるやかな即興演奏が、晴れた休日の図書館にやさしく響き渡った。ふらっと通りすぎる人、じっくり読書にふける人、静かに身を委ねる人など、それぞれ自由に、穏やかな時間を過ごしていた。

この記事では、当日の様子を写真とともに、参加者・出演者・企画者の感想を交えながらレポートしていく。

快晴の4月、新緑と光に包まれる図書館へ

風と緑が心地よい4月。公園を駆け回る子ども連れ、図書館の中でも外でも本を読む人たち、コーヒーを片手におしゃべりを楽しむ人たち。快晴にも恵まれ、まるで絵に描いたような「都市の休日」の風景が広がっている。

多摩市立中央図書館の外観。ちょうど4月に公園がリニューアルされたばかりで、この日は公園も図書館も多くの人でにぎわっていた。

明るい光が差し込む図書館の2階では、演奏の準備がゆっくりと進められていた。ギターやパソコンなどの機材を設置する様子に、通りすがりの人も「何が始まるんだろう?」と興味深そうに覗き込む。

準備風景

すでに近くの椅子に腰かけて本を読む人も多く、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。2階すべてが「おしゃべりOK」であることから、子どもたちの笑い声や、絵本を読み聞かせる声がやさしく響き、いつもと変わらない、のどかな図書館の空気がそこに広がっていく。

イベント案内とミニフライヤー(写真左)。選書棚の本を読む子ども(写真右)

館内に流れる「鳥のさえずり」のBGMは、まるで公園で本を読んでいるかのような気分にさせてくれる。演奏スペースの近くには、出演者や企画者がイベントに合わせて選んだ本が並べられていた。

宮内優里とTomotsugu Nakamuraによる『読書のためのBGM演奏』

開始時間が近づくと、かしこまった挨拶などはなく、演奏がなだらかに始まっていった。

宮内優里

子どもの声や「鳥のさえずり」に溶け込むように、宮内優里とTomotsugu Nakamuraが奏でるふわりとした電子音が、居心地のよい空気を静かに満たしていく。少しずつ、近くの椅子に座る人の姿も増えていった。

Tomotsugu Nakamura

公園に面していることもあり、人の出入りは途切れない。流動的な空間でありながら、そこに騒がしさはなく、穏やかな音とともに、それぞれが静かに自分の時間に没頭していた。

演奏は、2階の中央付近で行われた。音はほどよく空間に広がり、離れた席で本を読む人の耳にも、そっと届いていた。

小説を読む若い人、漫画に夢中な子ども、雑誌を広げた高齢の方。パソコンで作業する人や、ただぼーっとしている人も。ベビーカーで絵本コーナーに向かう親子もいれば、寝転がって本を読む子どもの姿もあった。

本を読む参加者たち

宮内優里とTomotsugu Nakamuraは、ときおり会話を交えながら即興演奏を続けていく。新しい音色やきらりと光るようなフレーズが、やわらかく空気の中に溶け込んでいくこともあったが、時間が経っても、余白のある心地よい空気はそのままに、ただひたすらに居心地のよい時間が続いていた。

気づけば、まるで最初からそこに音楽があったかのような感覚になっていた。子どもの声も「鳥のさえずり」も、音楽とやさしく調和している。空間の音楽として場をそっと整えながらも、過度に注目されることはなく、静かに背景として在り続ける――それはまさに、BGM演奏の理想的なあり方だった。

およそ3時間にわたる演奏は、音がゆっくり、ゆっくりと小さくなりながら、静かに幕を閉じた。わずかな拍手が起こったあと、図書館はすぐに、いつもの穏やかな日常へと戻っていった。

参加者からの感想

中村さんのアルバム『Monologue』が好きで初めて参加してみました。もともと流れていた鳥のSEや子供の声、足音に途切れ途切れのギターや電子音が溶けるように混ざってあの時、あの空間でしか味わえない居心地のよい時間を過ごせたと思います。

参加者

音楽が家具みたいに、いい感じに無視されている空間で、気持ちよく読書の時間を過ごすことができました。

参加者

図書館から流れる鳥の声、子供の会話の声などが2人の音楽に自然と溶け込んでいて、とても優しい時間が流れていました。宮内さんと中村さんの音楽を聴きながら、本を読んだり、本を選んだり、図書館での空間をとても居心地よく過ごすことができました。

参加者

出演者の感想

大きな池のある広々とした公園に隣接した図書館で、とても明るい雰囲気のいい場所でした。たくさんの人が移り変わり来てくださり、とてもうれしかったです。

中村さんと一緒の演奏も初めてでしたが、やはりというか、とっても相性が良かったと感じています。

当初は演奏しながらパソコン内にモチーフも残して、後々作品にしたりもいいなあなんて勝手に目論んでいたのですが、中村さんが面白い音を出してくださるので、リアクションに集中したくなって、モチーフ作りをやめて純粋にその瞬間の演奏を楽しみました。気がつけばほとんど休憩もせずに3時間ほど。リラックスした雰囲気で会話も交わしながらゆっくりと時間が進んでいきました。

後半、僕が欲をかいてリズムを入れて動きを出してみようとしたのですが、なんかそれまで適度に自由だった2人が「音楽」を意識して、不必要に一つになろうとして堅くなってしまい、阿吽の呼吸で早めにおしまいにして元のリズムレスの音楽に戻しました。中村さん、ごめんなさい。笑

同じ方向を向きながら適度にズレている、ということがなんてちょうどよくて、豊かで、楽しいことなんだろうと改めて強く感じることができました。お客さんとの間にもそういう適度な居心地の良さがあるのかもしれません。

まだまだBGMというのは奥が深いですね。今回も気づきのある時間でした。

多摩市立中央図書館のみなさん、企画してお声がけくださった石松さん、中村さん、そして足を運んでくださったみなさん、貴重な時間をありがとうございました。

宮内優里

お気に入りの公園の池のほとりにリニューアルオープンした図書館を訪れたとき、「開放感があって、なんて素敵な空間なんだろう」と思いましたが、そこで遠くない未来にライブすることになるとは思いませんでした。

3時間あまりという時間でしたが、空間演出の一部という意味で、読書のための音楽を提供できたのは、とてもよい体験でした。

会うたびに楽しく過ごさせていただいている宮内さんとの演奏は、余計なプレッシャーもなく、それぞれが奏でたい音を使って適度に隙間を埋めている感じで、無理なく流れていたなと思います。

おしゃべりOKの空間で混ざってくるお客さんの声や、図書館にもともとあった鳥のSEも、ほど良いアクセントになっていましたね。

ふたりで会話をしながらあれこれ試してみて。このライブというより公開収録のようなカタチはとても楽しいので、これからも積極的にやっていきたいと思いました。

Tomotsugu Nakamura

主催側の感想

主催者の石松さんからお話を伺ったとき、どんな化学反応が生まれるのかワクワクしたことを覚えています。

個人的にアンビエントに興味があり、当日は一参加者として心地よく楽しませていただきました。普段働いている場所なのに、音楽があるだけでいつもと違う空気が流れていて、音楽は生活を彩るのだと実感する時間になりました。

「図書館で音楽イベント」と聞くとあまり親和性がないように感じますが、今回のイベントは読書が主役。利用者の方から、「生演奏が聴けて嬉しい」「図書館でこんなイベントがあるのはいいね」というお声もいただきました。いつもの鳥のさえずりが聞こえるだけでなく、そこに素敵なBGMがさりげなく流れる読書空間を楽しんでいただけたのではないかと思います。

今後も図書館という枠にとらわれず、様々な企画を実現したいと思っています。主催者の石松さん、演奏者の宮内さん、中村さん、ありがとうございました。

龍門あゆ美(多摩市立中央図書館)

これまで古民家や重要文化財、ブックカフェで開催してきた『読書と静かな即興演奏』シリーズ。今回は、そのシリーズを初めて図書館で実施できた、とても嬉しい回でした。

当日は天気にも恵まれ、多くの方がふらっと通りすぎたり、座って本を読んだりと、それぞれがのんびり自由に過ごせる時間になり、本当によかったです。

もちろん「もっと穏やかな音楽に興味を持ってもらいたい」という想いも企画の意図にはありましたが、それ以上に、音楽という枠を超えて、何か満たされたような時間でもありました。赤ちゃんからお年寄りまで、知らない人どうしが集まって、同じ音に触れながら思い思いの時間を過ごす。お互いを自然と受け入れ合うことで、自分自身も力が抜けて、安心して何十分もそこにいられる。とても平和で、やさしい時間が流れていたと思います。

穏やかな音楽のいいところを再発見できたことはもちろん、単純に「こういう居心地のいい日々が、自分や家族にとってもだし、参加してくれた人やこの街の人にとっても続いていけばいいなぁ」と思ったりもしました。

市役所の方との会話の中で、公共的な「まちづくり」の視点として「世代を超えたゆるやかな人の繋がりを生みたい」「住み心地のいい街にしたい」といった想いがあることを伺いました。そうした想いと、こういう穏やかな音楽はとても相性がよいと感じていて、もっと一緒に取り組めることが多くあるのではないか、と可能性を感じもしました。

アンビエント的な音楽は、ジャンルで考えるとマイナーな方に分類されるかもしれませんが、その感覚や価値観は、多くの人にとって普遍的というか、自然と生活の中に取り込めるような存在だと思います。無意識のうちに誰かのそばに寄り添っているようなあり方も、ある意味でアンビエント的ですよね。自分としても、このメディアのコンセプトそのままに、もっと広い視点で「生活風景と穏やかな音楽の接点」を探していきたいと改めて思いました。

あとは、初めて企画イベントに自分の子どもを連れて行くことができて、いい思い出になりました。子どもが笑ったり泣いたりしても気にせず、緊張せずにゆったりと楽しめる音楽イベントが、もっと実現できたらいいなとも思います。

改めて、アイディアのきっかけとなったTomotsugu Nakamuraさん、出演を快諾いただけた宮内優里さん、図書館とのご縁をつないでくださった多摩市の西村さん、そして企画調整や準備、当日運営など様々な配慮をいただいた、龍門さんを始めとする多摩市立中央図書館の方々、さらにご来場いただいたり少しでも気にかけていただいた皆さん、ありがとうございました!

石松豊

スタッフクレジット

「読書のためのBGM演奏」 Music For The Story III – 読書と静かな即興演奏 – vol.5

■出演
宮内優里、Tomotsugu Nakamura

■デザイン
坂口ナオ

■共催
多摩市立中央図書館、Ucuuu

■企画
Yutaka Ishimatsu (orange plus music)

出演者機材。左がTomotsugu Nakamura (+ギター)、右が宮内優里。

プロフィール

宮内優里

音楽作家。1983年生まれ。千葉県四街道市在住。2006年にRallye LabelよりCDデビュー。生楽器の演奏とプログラミングを織り交ぜた、有機的な電子音楽の制作を得意とする。最新作は2024年リリースの「Beta 2」。ライブ演奏では即興での多重録音によるパフォーマンスを行う。WORLD HAPPINESS、FUJI ROCK FESTIVALなどにも出演。近年はBGM演奏という形の活動をメインに、全国の図書館や美術館など様々な場所で演奏をしている。自身の活動以外では、映画「岬のマヨイガ」(監督:川面真也 / CV:芦田愛菜ほか / 原作:柏葉幸子)、映画「リトル・フォレスト」(監督:森淳一 / 出演:橋本愛ほか / 原作:五十嵐大介)などの映画音楽をはじめ、NHK・Eテレ「あおきいろ」、「Q~こどものための哲学」や、ドラマ・舞台・CMなどの音楽、公共施設や店舗などでの空間のための音楽制作など、様々な形で制作・提供を行っている。KENJI KIHARAとの「BGM LAB.」などでも活動中。

プロフィール

Tomotsugu Nakamura

東京都在住のサウンドアーティスト。楽器とフィールドレコーディングを同時にプロセッシングする手法で独自のサウンドを奏でる。電子音とアコースティックのバランスがとれた音像が特徴で、 これまでに laaps(仏)をはじめとする国内外のレーベルから多数の作品をリリース。2023年にはドイツの音楽批評家賞”German Music Critics Award” Electronic & Experimental部門を受賞した坂本龍一の追悼アルバムmicro ambient musicに参加。近年はギャラリーやカフェなどの空間演出を手掛けながら、読書カフェや図書館などにて、読書のための音楽と銘打った静かなライブをおこなっている。

執筆・編集:石松豊

合わせて読む

MAGAZINE

音楽と生活の新しい接点に出会う

VIEW ALL →
  • REPORT 8

    #PR 2026.02.16

    Wataru Satoが問いかける「それぞれの天国とは?」雪景色の永福町で、ソロワークの集大成『Sense of Heaven』ライブレポート

    Wataru Satoが問いかける「それぞれの天国とは?」雪景色の永福町で、ソロワークの集大成『Sense of Heaven』ライブレポート

    2026/2/8に永福町sonoriumで開催したアルバム『Sense of Heaven』リリース記念ソロコンサートの記録

  • ARTIST 16

    2025.12.22

    「日々の記録」から生まれた曲が、誰かの日常にそっと寄り添う。sukimaが大切にする「音楽を作っていない時間」

    「日々の記録」から生まれた曲が、誰かの日常にそっと寄り添う。sukimaが大切にする「音楽を作っていない時間」

    シンガーソングライター・sowhei時代から変わらない「日々が音楽になる」こと

  • REPORT 7

    #PR 2025.12.02

    都市と自然のあわいを包む、秋夜のアンビエント。Tomotsugu Nakamura×Watasino 『駒沢こもれびBGMライブ』レポート

    都市と自然のあわいを包む、秋夜のアンビエント。Tomotsugu Nakamura×Watasino 『駒沢こもれびBGMライブ』レポート

    2025/11/21に駒沢パーククォーターで開催したBGMライブの記録

DISC GUIDE

気分に合わせて新しい音楽を探す

VIEW ALL →
  • 劇場アニメ ルックバック オリジナルサウンドトラック

    haruka nakamura

    特に最後、京本の笑顔のシーンとともに流れる「FINAL ONE」が本当に素晴らしくて、毎回この場面で号泣してしまいます。

    sukima

  • 櫛稲

    Asu, 行川さをり

    正直、作曲家として「参りました」と思いました。

    安田寿之

  • Insight II

    Julien Marchal

    気持ちを落ち着かせたり、自分のソロ活動へと気持ちを切り替えたりするために、この作品をよく聴いています。

    根本理恵

  • Pianisme

    Sylvain Chauveau

    全体的に静かな雰囲気で、余白を十分に感じられる作品です。夜、寝る前に聴くことが多いのですが、そのまま寝てしまうくらい心地よいですね。

    Paniyolo

SOUND DIARY

アーティストの音日記を覗く

VIEW ALL →
  • 2024.10.30

    The Forest of Amami-Oshima Island Around Sunrise

    Soundscape Diary

    斉藤尋己

    斉藤尋己

NEWS

最新の穏やかな音楽情報を知る

VIEW ALL →
  • 2026.03.08

    Hiromu Yamaguchi、新作『The City & Diurnal Modulation』をアンビエントレーベル・TEINEIから3/13配信リリース

  • 2026.03.08

    山中湖でTomotsugu Nakamura出演のレコードDJイベント「Record Night」3/14開催。コーヒーや地ビールも

  • 2026.03.04

    7日連続アンビエントフェス「MIMINOIMI – Ambient / Week – 」が今年も5/4-10に開催。第1弾プログラム発表

  • 2026.02.25

    シンガーソングライター/劇伴作家の小林未季、量子力学をモチーフにした新曲『孤独な星』2/25配信リリース

ABOUT

生活風景に
穏やかな音楽を

『Ucuuu』は、穏やかな音楽の魅力を発信するAmbient Lifescape Magazine(アンビエント・ライフスケープ・マガジン)です。

アンビエント、エレクトロニカ、インストゥルメンタル、アコースティックギターやピアノなど、「穏やかな音楽」は日常にBGMのように存在しています。

木漏れ日のように、日常に当たり前のようにありながらも強く認識はせず、でも視線を向けると美しさに心癒されるような「穏やかな音楽」の魅力を多面的に発信しています。

VIEW MORE →