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PROJECT 2

ボードゲーム”今プロ”専用BGMが誕生。音楽が拡張する「遊ぶ楽しさ」

2024.01.05

近年のボードゲーム人気を支える『たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。』(略:今プロ)。誰もが遊べる大喜利ゲームとして大ヒットし、2017年の発売以降シリーズ累計発行部数は25万部を突破した。

シリーズは『ドン・キホーテ』や『トニカクカワイイ』とコラボしながら、様々な拡張セットに展開。最近では小説、手ぬぐい、ピアスなども発売し、新しいボードゲーム体験を多角的に生み出している。

その延長線上で始まったのが『ClaGla BoardGameMusic Project(ClaGla BGMプロジェクト)』。ギタリスト・まるやまたつやによる”今プロ”のための楽曲が、全6曲リリースされる予定だ。

なぜ”ボードゲームのための音楽”を作ろうと思ったのか。ClaGla代表のこだまとゲームデザイナーのdaipoに話を伺った。

ボードゲームで遊ぶときって何か音楽をかけたいんですが、ちょうどいい音楽を探すのが大変なんですよ

—「ClaGla BoardGameMusic Project(ClaGla BGMプロジェクト)」は、いつから始まったんですか?

こだま:最初の楽曲がリリースされたのは2023年9月ですね。動き始めたのはもっと前の1月か2月で。まるちゃん(=まるやまたつや)が札幌に帰ってきたときに、一緒にスキーやって遊んだんですよ。それで飲んで話しているうちに盛り上がって。

ClaGla代表のこだまじゅんじろう(写真左)とゲームデザイナー/イラストレーターのdaipo(写真右)。

—まるやまさんとは、以前から繋がりがあったんですね。

こだま:まるちゃんは、僕の教え子であり友達なんです。僕が以前デザイン系の大学で非常勤講師をやっていたときの学生で、その時に仲良くなって。まるちゃんのライブにも行ってましたね。年齢の差はありますが、彼の人間性が好きというか尊敬していて、何か一緒にできたら嬉しいなとはずっと思っていました。

北海道札幌市出身のギタリストまるやまたつや。ClaGla BGMプロジェクトの楽曲を制作している。

—”ボードゲームのための音楽”という発想は、どこから生まれたんですか?

こだま:ちょうど「藻岩下BRICK」というボードゲームカフェをオープンしたんですよ。そのカフェで流す音楽をどうするか悩んでいて。「ボードゲームで遊んでいるときに流れている音楽って、どういうものがいいだろう?」という話から「ボードゲームのための音楽をつくるプロジェクトって、おもしろいんじゃないか」となっていきましたね。

daipo:ボードゲームで遊ぶときって何か音楽をかけたいんですが、ちょうどいい音楽を探すのが大変なんですよ。ゲームを邪魔せず、ふわっといい空間を作ってくれるような音楽が欲しいんですよね。なので今回のボードゲームに合ったBGMをつくるというプロジェクトは、ボードゲーマーにとっていいことだなと思っています。

2023年7月に札幌でオープンしたボードゲームカフェ『藻岩下BRICK』。店内BGMとして、毎日まるやまたつやの音楽が流れている。

—それで、まるやまさんにオリジナル楽曲の制作を依頼したんですね。

こだま:まるちゃんと話しているときに、ライフスタイルブランド『KINTO』の音楽プロジェクトに参加していることを教えてもらって。商品を扱う生活シーンに合わせた音楽をつくって、動画やSNSで使ってもらいながら、Spotifyなどストリーミングでも楽曲配信していると。「これだ!」と思って、一気にプロジェクトのイメージが固まりました。

KINTOの音楽プロジェクトでは、まるやまたつやを含む14組による36曲がこれまでにリリースされている。『Ucuuu』を運営する石松が企画やキャスティングに携わっている。

「今プロを遊ぶときにかける音楽」なのか「今プロをイメージした音楽」なのかという部分は、ターニングポイントだったと思っていますね

—音楽の方向性について、何か議論はしましたか?

こだま:「どういう音楽があればボードゲーム体験が高まるのか」「ボードゲーム体験を豊かにしていける最高の音楽とは何なのか」という話をよくしましたね。例えば『たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。』は、ゲーム中にゆっくり10まで数えるので、「1、2・・・」と一緒に数える音楽にする方向性もありました。

『たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。』。カードを並べて台詞をつくるというシンプルなルールで遊べる。

daipo:「今プロを遊ぶときにかける音楽」なのか「今プロをイメージした音楽」なのかという部分は、ターニングポイントだったと思っていますね。結果的にはゲーム性に関係しない方がBGM的なんじゃないか、ということで遊ぶときにかける音楽を制作いただきました。

ClaGla BGMプロジェクトの1曲目としてリリースされた楽曲「Promise」。ロマンチックな雰囲気を演出することで、プロポーズが成功する確率が上がるかもしれない。

—楽曲は、”今プロ”シリーズに合わせて複数リリースされているんですね。

daipo:基本版の音楽として最初に「Promise」をつくって頂いて、その後は5種類の拡張セットに合わせて制作いただく予定です。「ラバーズピンク」はラブラブな単語がいっぱい入っていたり、「ストーカーブラック」は粘着質な言葉が入っていたりとテーマが違うので、楽曲のトーンもまた変わってくると思います。

こだま:陽気でノリの良い「ウェイウェイゴールド」も後に控えていますし、毎回どんな音楽になるか楽しみなんですよ。

ClaGla BGMプロジェクトの2曲目としてリリースされた楽曲「Honey」。まるやまたつやが人生で初めて「かわいい」をテーマにした楽曲で、好きな人を前に揺れ動く感情を表現している。

daipo:僕らはボードゲーム側のテーマを元に音をイメージしてしまうんですが、まるやまさんは音楽としてのバランスを上手に考えてくれるんですよね。例えば「ストーカーブラック」のBGMは、不穏な雰囲気にしすぎるとカフェで流す音楽としては不向きなので、ちょっと違うトーンにしようとか。「ゲームで遊んでいる人に、どう自然に音楽が溶け込むか」を丁寧に想像してくださるので、ありがたいですね。

—実際にボードゲームで遊びながら音楽を流すときは、同じ楽曲をループ再生して聴くのでしょうか?

こだま:実は同じ曲を2種類、長さを変えて配信しています。一つはアーティストまるやまたつやの楽曲として2-3分の楽曲を、もう片方はClaGla BoardGameMusic Projectというアーティスト名で10分ほどのものを配信しています。

ClaGla BoardGameMusic Project というアーティスト名で配信されている楽曲。「Promise」と同じメロディがループしており、尺が10分弱ある

こだま:ボードゲームで遊ぶときはプレイ中に音楽が変わらない方が集中できるので、長い尺がよかったんです。でも、まるちゃんのファンが楽曲として聴くときのことを考えると10分は長くて。なので2種類どちらも配信して、ボードゲームで遊びながら聴くときはClaGla BoardGameMusic Projectの方を流してもらう仕組みにしました。

—アーティストのファンに対する配慮が含まれてたんですね。

こだま:僕も昔は映画をつくるクリエイターだったので、「いかにクリエイターにインセンティブを持ってもらうか」は大切にしていて。まるちゃんにも、まるちゃんのファンにも、このプロジェクトがいい形であって欲しいと思っていますね

その時の記憶を心に刻みつけるものとしての音楽

—”ボードゲームのための音楽”の、一番の魅力は何だと思いますか?

こだま:例えば学生の頃に聴いていた曲を大人になって聴くと、ノスタルジックな気持ちになったり、当日のことを鮮明に思い出したりしますよね。僕ね、旅行に行くときに必ずテーマソングを決めていくんですよ。そうすると後になって曲を聴いたときに、忘れていた記憶を呼び覚ましてくれるんです。空気や風の感じだったり、食べた料理の味だったり。

これはボードゲームも同じで。例えば仲のいい6人が集まって今プロで遊んでいて、今回のBGMをかけながら徹夜で遊んでいたと。また時間が経って「あの頃楽しかったな、また遊びたいな」と思っても、もうなかなかその6人で集まれない。そういうときにBGMを聴くと、当時の楽しい体験を思い出したり、懐かしんだりできるんですよね。そういうのってすごく大切なことだなと思っていて、音楽が持つ機能というか魅力の一つだと思いますね。

販売前のボードゲームを社員同士でテストプレイしている様子。大切な仕事の一つだが、みんなでゲームをして遊ぶ時間は楽しいと語る。

daipo:もちろん、ボードゲームを遊ぶときの体験が音楽によって深まるということもあると思います。ただそれだけではなくて、「その時の記憶を心に刻みつけるものとしての音楽」というか、記憶装置の一つとしてボードゲームのための音楽を用意するのは、とても意義あることだと思いますね。

—ボードゲームを遊ぶ体験を、その場限りではなく時間軸的にも残る体験にして欲しいんですね。

こだま:そうですね。映画の仕事をしていたときに、演技があって、映像があって、色々な力が重なり合っていて、これは総合芸術だなと思ったんですよね。ボードゲームもただ遊ぶだけじゃなくて、楽しむ時間とか場所、空間を拡張していきたいと思っていて。だからボードゲームのためのコーヒーを作ったり手ぬぐいを作ったりしていて、音楽もその一つにあると思っています。

北海道小樽市を拠点とするテキスタイルブランド『Aobato』とのコラボで生まれた手ぬぐい。ボードゲームを包んだり拭いたりと、1枚持っていると何かと便利なもの。

こだま:ボードゲームって、みんなで遊ぶことの幸せを感じられるものだと思うんですよね。自分の子供の頃を思い出しても、家族でゲームした記憶ってすごく楽しかったんです。いろんな遊びがあるなかでも、ボードゲームって人の輪を作ってくれるというか。その楽しさをもっと多くの人に知って欲しいなと思っています。

—確かに、文字通り輪になって、物理的な距離も近く遊べるものですもんね。

こだま:人の輪もですし、人の関係も作ってくれるんですよ。実はうちの会社の経理は、僕がボードゲームカフェでバイトしていたときに来たお客さんで。一緒に遊ぶことで人間性を知るようになって、今では自分の背中を預けるような人になっています。これが飲み会だったら、こうなっていなかったと思うんですよ。

—遊べたことで「その人と一緒に何かをしたら楽しい」みたいな見方に変化していくのかもしれませんね。最後に、ClaGla BGMプロジェクトとして今後やっていきたいことはありますか?

こだま:僕らのゲームに限らず、もっといろんなボードゲームの音楽をつくってみたいですね。有名なゲームが世界中にあるので、それぞれのBGMを作れればおもしろいと思います。

プロフィール

こだまじゅんじろう

札幌市豊平区出身。北海道大学大学院で観光創造を専攻。2018年に株式会社ClaGlaを設立する。アナログゲーム制作団体『CRIMAGE』には2016年に参加し、ワカサギ釣りガイドの経験を元に『ワカサギ』を制作。「創意工夫」を座右の銘とし、心が動く感覚を大事にしている。ツアーコンダクター、クリエイティブディレクター、映像作家、ツアーガイド、ボドゲカフェ店員を経験し、映像作家としては多数の賞を受賞するなど持ち前のアグレッシブな性格を活かして多方面で活躍。愛鳥家の一面を持ち、本人曰く鳥の気持ちがそこそこわかる。最近では飼っているヨウムのぐーちゃんを愛でることで心を和ませる。

プロフィール

daipo

株式会社ClaGla所属 ゲームデザイナー/イラストレーター。2015年にアナログゲーム制作サークルCRIMAGEでゲームマーケットに初参加。「手軽に遊べるパーティゲーム作り」をモットーにゲームを制作している。活動拠点は札幌。代表作は『たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。』『どっちぼーい』『インナークロック』『4コマンガ』など。趣味はゲームと石集め。

執筆・編集:石松豊

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